第2話 妹の友達が手を握ってくる。
僕の妹は一人で遊ぶのが好きなタイプだ。
小さい頃から、漫画を読んだりゲームをしたり、絵を描いたり歌ったり、よく一人で自由気ままに遊んでいた。
かといって一人が平気なタイプでもなくて、小さい頃から僕に懐いていた。何もしなくていいから傍にいてほしい、とは本人がよく言っていた言葉。
父さんや母さんは驚いていたけど、僕としてはそれが居心地がよかった。
無理やり付き合わされるわけでもなく、嫌われてもない。それが僕たちの適度な距離感だったんだと思う。
そんな妹に、少ないとはいえ心を通じ合わせる友達ができたのは不思議だった。
いわゆる親友というやつなんだろう。
僕にはそんな人がいないのに、あまり外に出たがらない妹にしては意外なことに、利用するとかそんなんじゃなくて本当に仲のいい友達ができているのだ。
「お兄さん。占いって信じますか?」
僕の妹の友達の鈴原つかさちゃんが、唐突にそんなことを言い出した。
占いって、女の子が好きそうなイメージがある。女の子の友達なんかほぼいない僕がそれに触れる機会は極端に少なくて、あいにく僕の妹も占いなんて言葉を聞いてもどうでもよさそうにしている。
ひょっとしてつかさちゃんは好きなのかな?
今まで聞いたことはないけど変な話じゃない。もしそうでも驚きはなかった。
「私はあまり信じてはいないんですけど。当たるも八卦当たらぬも八卦なので、都合がいいものだけ受け入れるようにしてます」
「なるほど。それは、落ち込むことがなくて上手い付き合い方な気がする」
「はい。ですけど、ちょっと考えを変えまして」
何かを変えようとしてるらしい。それに僕が付き合わされるみたいだ。
「手相占いをしてみようと思うんです」
「……ん? つかさちゃんが?」
「はい。なので、練習に付き合ってもらえませんか?」
ふむ。占いにはあまり興味がなさそうなのに、手相占いをしたいと。
どういう心境の変化があればそうなるんだろう。
まあ別に、拒むほどのことじゃないし、僕がすることは何もないだろうし。手を貸すくらいなんてことはない。
「いいよ。えっと、どっちの手がいいの?」
「み、右手からお願いします」
「ああ、両方見るんだ」
「はい……あ、あの! これは色々調べもしましたがあくまでも初心者ですし自分の感性を信じてみようと思いますので! ちょっとお時間いただきますね!」
「は、はい」
なんだかすごく熱くなって言い切られてしまった。
別に暇だし、全然いいんだけど。
「し、失礼します……」
つかさちゃんに手を握られた。
改めて考えると、こんな可愛い子に手を握られるなんて、ちょっとどころじゃなくドキドキする。でも向こうはそんなつもりないだろうし、冗談としてさえそんなことは言い出せない。
あまり余計なことは考えない方がいい。
つかさちゃんは今、真剣に僕の手相を見てくれようとしているんだ。
と思ってたらちょっとつかさちゃんの様子がおかしい。僕の右手を両手でにぎにぎしながらじっと見つめていて、顔が赤くなってる。
そもそも距離が近い気がする。手相ってそんなに近くで見るもの?
「ふぅ、ふぅ……う、う~ん、実際見てみると難しいですね……」
一応そうは言われるんだけど、違う目的があるんじゃないかって思ってしまう。
手が汚いとかそういうことはないと思うんだけど。ちゃんと洗ってるし、汚い物とか触ってないし、そもそも汚かったらそこまで触ることはないだろう。
つかさちゃんの手が、僕の手をにぎにぎしてる。
指を確かめるみたいに摘ままれたり、指を絡めたり、握ったりしてくる。
恋人つなぎみたいになった瞬間もあった。
意味があるのかはわからないけど、やってるってことは必要な動きなんだろう。
「手……意外と、おっきいですね」
「え? そう? でももっと大きい人はいるし、指も短い方だと思う」
「いえ、私はこれくらいの方が……」
つかさちゃんの好みに合ってたんだろうか。それならよかった。
いや何がいいのかわからないけどなんとなく。
「あのー、何かわかった?」
「えっ⁉ い、いや、そうですね。う~ん……」
「僕の手ってそんなに変かな」
「違います! 変じゃなくて、いい手だなーと思って、あっ⁉ 手相的に!」
「あ、そうなんだ」
なんかうんうん唸ってたからよっぽど悪い結果なのかと思ってたけど、いい方向性だったんならそれでいいや。
でも、じゃあ、なんでうんうん唸ってたんだろう。
「い、一回、普通に、手を……つないでみましょうか」
「え? そうなの? 僕はいいけど」
「私もいいです」
「必要なんだ?」
「はい! 必要です!」
なぜかすごい剣幕で言われてしまった。
手相のことなんて僕は知らないし、素直に従う。
なんと、またしても恋人つなぎだった。
彼女の細くて柔らかい指が、きゅっと僕の指に絡められて、その上で手をつなぐことになる。
彼女は僕の手を大きいと言ったけど、実際、サイズに大きな違いはない。彼女は身長も高めでうちの妹よりも色んなとこが成長している。
対する僕は男子の中じゃ小柄な方。あまりにもチビってわけじゃないけど、頼りなく見られたとしても不思議じゃない背格好だ。
「えへへへ……」
この行動になんの意味があるのか、ぼくにはわからない。
でもつかさちゃんは嬉しそうなのでまあいいか。
そう思うくらいには、僕は手を握られている間ずっとドキドキしっぱなしだった。
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