第72話




完治とは言えないながらも、何とか歩けるくらいに回復した頃、ようやく退院することができた。



本当は、もう少し入院した方がいいらしいがそうできないだけの理由があるらしい。



不思議に思って理由を聞いても、先生は困ったように笑うだけで教えてはくれなかった。






「‥‥本当に、帰っていいの?」



車の中で、隣に座る無名におずおずと尋ねる。






「何故そう思うのですか?」


「‥‥だって」




下を向いてぎゅっと手を握った。



退院が決まってからというもの、不安で仕方がなかった。



部屋に入るなり追い出されたらどうしよう。



そうなったら、私はどこに行けばいいんだろう。



住むところもないし、もう随分とバイトもしておらず、金銭的にも前以上に苦しくなるはずだ。



まだこれから高校と大学の奨学金だって返していかないといけないのに‥‥。




そんなことを考えすぎたせいで頭痛すらしてくる。










「大丈夫ですよ」



不安から震える手を、そっと握り締められた。






「私を、信じてください」



優しく微笑みかけられて、思わず泣きそうになった。






「無名のことは信じてる。でも、あの時雨が許してくれるとも思えない」


「小夜さんが心配することはないですよ。何せ、小夜さんを退院させるようにさせたのは、若ですから」


「‥‥時雨が?」


「はい。だから心配しないでください」





それで先生の態度が変だったのか。



だけど、どうして時雨がそんなことを?



私の顔なんて見たくもないはずたのに。



まさかとは思うが、部屋に戻るなり罵倒されたり、最悪の場合に暴力を振るわれたりしないだろうか。



‥‥駄目だ、今度は違う不安が出てきてしまった。

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