第71話
◇
ーー声がする。
これは、誰の声だろうか?
眠りが深くて起き上がれずに、耳を傾けたところで内容を聞き取れるだけの意識はない。
「まだ完治していないんです。どうか分かってください」
「これ以上ここに置くことに何の意味がある?」
「何かあった時のためにも、医療機関の整っているここにいる方が彼女も安心できるはずです」
「感情なんてどうでもいい。これは俺のものだ。どうするかは俺が決める」
「そんな横暴な‥‥」
困惑した様子の先生に、もう一人は‥‥?
「これまで通り無名を付ける。それでいいだろう。これ以上御託を並べるようなら、ここを利用することは2度とないと思え」
「‥‥分かりました。ですが、絶対安静にさせてください」
‥‥ああ、駄目だ。
眠すぎて、起きてられない‥‥。
何者かの気配が近づいたと思えば、そっと額に手が添えられる。
無名とは違う、大きくて力強い手だ。
「熱は?」
「もう下がりました」
「そうか。お前も少し休め」
「はい。‥‥あの」
「何だ」
「どうか若も休息を取られてください。随分とお疲れなご様子です」
「そろそろ仕事もひと段落つく頃だ。休みたければ、休みたい時に勝手に休む」
「私も、組に戻り次第手伝います」
「お前はいい。そいつに付くことが今の任務だからな。そっちを優先しろ。組のことは出来る範囲でやれ」
「はい、仰せのままに」
「おい、ここにもう一つベットを用意しろ。お前は無名が休んでるか見張ってろ」
額にあった手が、離れていった。
それをどこか名残惜しく感じたのは、正気ではなかったせいだろう。
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