第71話




ーー声がする。



これは、誰の声だろうか?



眠りが深くて起き上がれずに、耳を傾けたところで内容を聞き取れるだけの意識はない。







「まだ完治していないんです。どうか分かってください」


「これ以上ここに置くことに何の意味がある?」


「何かあった時のためにも、医療機関の整っているここにいる方が彼女も安心できるはずです」


「感情なんてどうでもいい。これは俺のものだ。どうするかは俺が決める」


「そんな横暴な‥‥」




困惑した様子の先生に、もう一人は‥‥?







「これまで通り無名を付ける。それでいいだろう。これ以上御託を並べるようなら、ここを利用することは2度とないと思え」


「‥‥分かりました。ですが、絶対安静にさせてください」





‥‥ああ、駄目だ。



眠すぎて、起きてられない‥‥。




何者かの気配が近づいたと思えば、そっと額に手が添えられる。



無名とは違う、大きくて力強い手だ。








「熱は?」


「もう下がりました」


「そうか。お前も少し休め」


「はい。‥‥あの」


「何だ」


「どうか若も休息を取られてください。随分とお疲れなご様子です」


「そろそろ仕事もひと段落つく頃だ。休みたければ、休みたい時に勝手に休む」


「私も、組に戻り次第手伝います」


「お前はいい。そいつに付くことが今の任務だからな。そっちを優先しろ。組のことは出来る範囲でやれ」


「はい、仰せのままに」


「おい、ここにもう一つベットを用意しろ。お前は無名が休んでるか見張ってろ」







額にあった手が、離れていった。



それをどこか名残惜しく感じたのは、正気ではなかったせいだろう。

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