自責

第70話

あれから1週間ほどが経った。



幸いにも骨は折れておらず、打撲や捻挫、切り傷といった軽傷の類だった。



しかし、怪我による高熱に魘されたりと、元々体の弱い私には決して楽なものではなかった。



その間、常に無名が側にいてくれて精神的な支えにもなってくれていた。



30代後半くらいの男性で、優しそうな顔をした中山先生もすごく親身になってくれて、怪我は順調に回復へと向かっている。









「ようやく熱が下がりましたね」


「無名と先生のお陰ね」


「私は何も。ただ側にいただけです」


「ううん。それが何よりも心強かったの、本当にありがとう。‥‥それと、ごめんなさい迷惑をかけてしまって。ずっと付きっきりだったでしょう?」


「いえ、私がしたくてしたことですから気にしないでください。それに、今の私の役割でもありますから」


「‥‥そう」


「気になりますか?」


「‥‥‥少し」




私の考えていることなんて、無名にはお見通しのようだ。



気になるか、とはっきり聞かれると否定したくもなるが、気にならないと言ったら嘘になる。







「ここに来ないというより、来れないんですよ」


「行きたくないんじゃなくて?」




殆ど八つ当たりみたいに怒鳴り散らしてしまったから、絶対に怒っていると思っていた。



呆れて、見放して、捨てられてしまったのだと‥‥。









「実はお咎めを受けまして、いつもの倍以上の仕事を任せられているんです」


「お咎め?」


「あの時ーーつまり、小夜さんが怪我をした日のことですが、会合中に抜け出して来られたんですよ、若は」





‥‥そんなこと、知りもしなかった。



怒りまかせで正気を失っていたせいで、少し考えれば分かることだったのに、気づきもせずに‥‥。







「怒ってる、よね?」


「それは、ご自分で確認してみるのが宜しいかと」





軽くなったはずの気分が一気に重くなる。



時雨の元に戻っていいのかも分からないのに、どの面を下げて話しかけたらいいのか‥‥。



時雨には常日頃から散々しておいて、自分が拒絶される側になると思うと怖くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る