第61話



私は人一倍、他人からの悪意というものを感じ取ってしまう体質だ。



今まで幾度となく受けてきたからこそ、敏感になっているのかもしれない。




そして、最近はより強く感じるようになった。




次第に強くなっていき、さすがに嫌気がさしてきたころにそれは現れた。







「星宮さん」



聞き慣れたその声を、私の全てが拒絶するかのように鳥肌が立った。







「今、1人?」



以前とは話し方も、名前の呼び方も、表情さえ違う。



しかし、その瞳に込められた負の感情は健全だった。








「一緒に食べようよ。‥‥久しぶりにさ」




一体、どんなつもりで話しかけてきたのかは分からない。



あれだけのことをした相手に、こうも軽々しく話しかけられるのはある意味彼女らしいとすら思える。








「あの、私は‥‥」


「何、もしかして嫌なの?小学校からの友達なのに?」





〝友達〟だなんて、冗談だとしても趣味が悪すぎる。






「せっかく千穂ちほが誘ってんだからさ〜、付き合ってあげなよ」


「そうそう、どうせ食べる相手もいないんでしょ?」





千穂を中心に、数人の女が私を囲うように並ぶ。



この有無を言わさない空気が、昔から大嫌いだった。



できることなら、今すぐ突き飛ばしてでも抜け出したい。



けれど、私にはそんな度胸はなかった。



身をもって知っているから。



ーー自分が、いついかなる時も虐げられる弱者であることを。

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