第59話






見慣れた部屋。



見慣れたベット。



そして、見慣れた背中。







「‥‥時雨?」





目を擦りながら、背を向けてベットに腰掛ける時雨に声をかけた。



確か今日は帰って来ないと聞いていたけど。



深く眠っていたのか、まだ意識がぼんやりとしている。








「‥‥何だよ」




返ってきた返事は、なんだか機嫌が悪そうな声色をしていた。



‥‥ああ、最悪だ。



普段から厄介なのに、機嫌が悪いとなるともう本当に最悪でしかない。






「人に話しかけておいて溜息吐くとはいい度胸だな」


「‥‥いや、違うの。考え事をしてただけで」


「考え事をするのか、話しかけるのかどっちかにしろよ」




その偉そうな物言いには毎度ながら腹が立つけど、今回ばかりは言い返せないのが余計に腹ただしい‥‥。








「それで、何の用だよ」


「それは‥‥」




いや、ただ名前を呼んだだけなんだけど。



〝何でいるの?〟とか〝帰ってこないんじゃなかったの?〟とか〝どうしてそんなに機嫌が悪いの?〟とか聞きたいことは沢山あるけれど、今聞いたら怒られそうな気がするし。








「何となく、呼んだだけ」


「は?」




何でそんな鋭い目つきで睨まれないといけないのよ。



気安く呼ぶなとでも言いたいの?







「もういい」



だんまりを決め込む私に呆れたように溜息を吐くと、「詰めろ」と偉そうに命令して布団に入ってきた。



‥‥確かにあんたの布団だけどさ、もうちょっとこう普通に言えないのかこの男は。



常に偉そうだし命令口調だし、何様のつもりなんだろう。



まあ、私なんかと比べたらよっぽど格上な存在には違いないから、これが普通の対応なのかもしれない。







「寝る」




いつものように背を向けて眠ってしまった時雨。



毎度のことながら、どうして背を向けて寝るのだろう?



拒絶されているようで良い気はしないし、私との関係性ってやつの線引きのようで不快だ。



心配しなくても、この関係が一時の気の迷いってことは分かってるし、情があるなんて1ミリも思ってない。

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