第59話
◇
見慣れた部屋。
見慣れたベット。
そして、見慣れた背中。
「‥‥時雨?」
目を擦りながら、背を向けてベットに腰掛ける時雨に声をかけた。
確か今日は帰って来ないと聞いていたけど。
深く眠っていたのか、まだ意識がぼんやりとしている。
「‥‥何だよ」
返ってきた返事は、なんだか機嫌が悪そうな声色をしていた。
‥‥ああ、最悪だ。
普段から厄介なのに、機嫌が悪いとなるともう本当に最悪でしかない。
「人に話しかけておいて溜息吐くとはいい度胸だな」
「‥‥いや、違うの。考え事をしてただけで」
「考え事をするのか、話しかけるのかどっちかにしろよ」
その偉そうな物言いには毎度ながら腹が立つけど、今回ばかりは言い返せないのが余計に腹ただしい‥‥。
「それで、何の用だよ」
「それは‥‥」
いや、ただ名前を呼んだだけなんだけど。
〝何でいるの?〟とか〝帰ってこないんじゃなかったの?〟とか〝どうしてそんなに機嫌が悪いの?〟とか聞きたいことは沢山あるけれど、今聞いたら怒られそうな気がするし。
「何となく、呼んだだけ」
「は?」
何でそんな鋭い目つきで睨まれないといけないのよ。
気安く呼ぶなとでも言いたいの?
「もういい」
だんまりを決め込む私に呆れたように溜息を吐くと、「詰めろ」と偉そうに命令して布団に入ってきた。
‥‥確かにあんたの布団だけどさ、もうちょっとこう普通に言えないのかこの男は。
常に偉そうだし命令口調だし、何様のつもりなんだろう。
まあ、私なんかと比べたらよっぽど格上な存在には違いないから、これが普通の対応なのかもしれない。
「寝る」
いつものように背を向けて眠ってしまった時雨。
毎度のことながら、どうして背を向けて寝るのだろう?
拒絶されているようで良い気はしないし、私との関係性ってやつの線引きのようで不快だ。
心配しなくても、この関係が一時の気の迷いってことは分かってるし、情があるなんて1ミリも思ってない。
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