第57話



「よう、早かったな」


「‥‥」


「お前はなんで俺にだけそう無表情なんだ?」


「必要がないので」




愛想のかけらもない様子で入ってきた男には、いつもの貼り付けたような笑みはない。



それなりに付き合いは長いが、初めて会った時から俺にだけはこんな態度だった。







「まだ寝てるぞ」


「連れて帰ります」


「起きたらどうするんだ」


「それでも連れて帰ります」


「星宮は物じゃない。そう都合よく扱ってくれるな」


「それをあなたに言われる筋合いはない」





やけに棘のある物言いの男は、足早に部屋の奥に進む。






「毎回気になっていなんだが、お前に何かしたか?そう嫌われる理由が分からないんだが」


「嫌っている覚えはないですが、あなたが気に入らないのは事実です」


「それを嫌っているって言うんだよ」


「もし理由を上げるとすれば、彼女をこうしてここで寝かせるだけの神経の図太さですかね」


「俺はただ教師として普通のことをしただけたが」


「それは下心がなければの話です」


「俺に下心があると?」


「はい」


「何を根拠に」


「私はそういうことに敏感なので、あなたの話し方や態度ですぐに分かります」




今日はやけに喋るな、と他人ごとのように思う。






「仮にそうだとして、何か問題があるのか?」


「‥‥若をよく知りながら、彼女に関わろうとするその根性がどこからやって来るのか理解できない。その行為が彼女を害するのが分からないのか」





珍しいこともあるものだ。



能面だの人形だの後ろ指を指されている男が、明らかに怒っているのだから。

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