第56話
◇
酷く頭が痛い。
頭を押さえながら目を開けると、見覚えのある部屋で横になっていた。
「目が覚めたか、星宮」
「あの、どうしてここに?」
どうやら銀先生の研究室のようだが、ここにいる経緯が全く思い浮かばない。
「倒れたんだよ、俺の講義中に」
そうか、だから記憶が曖昧なのか。
「久しぶりだな、こういうの。前はしょっちゅうぶっ倒れてたもんな」
「‥‥すみません、迷惑をかけて」
「気にするな、これも俺の仕事だ」
そう言って微笑んだ銀先生の顔を見て安堵した私は、差し出されたおにぎりを受け取った。
「買いすぎたんだ、やるよ」
「‥‥ありがとうございます」
正直なところ食欲はないのだが、これが銀先生の好意だということを知っているからこそ無下にはできない。
いつもひとつしか買っていないおにぎりを〝買いすぎた〟と譲ってくれていることにはもう気付いてしまったから。
「今日はもう講義はないだろ?帰るのはもう少し休んでからにしたほうがいい」
「分かりました。そうさせてもらいます」
ソファーに横になると、意味もなく銀先生の背中を見つめた。
毎度のことながら、優しい人だと思う。
私は今までその優しさに何度も救われてきた。
〝何かあった〟ことなんてお見通しだろうに、それについて追求することは絶対にしない。
その配慮には本当に感謝している。
聞かれたところで答えられないし答えたくもない。けれど弱音を吐いた時はちゃんと聞いてくれて、〝頑張ったな、偉いな〟と頭を撫でてくれた。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
近頃は睡眠をまともに取れていない。
だけど、なんだか眠れそうな気がした。
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