意地
第55話
〝無名を人間にしろ〟と言われても、結局のところどうしたらいいのか分からない。
私には、そんな大それたことができるだけの力はないのに‥‥。
本当は厄介事を押し付けられただけではないだろうか?と思う節もある。
大切にはしているのだろうが、結局のところは従順な無名を手元に置くことで支配欲を満たしているだけなのかもしれない。
だって、相手はあの時雨だ。
傲慢不遜で
冷酷無情で
傍若無人で
唯我独尊な男。
そんなやつが、果たして他人を大切にすることが本当の意味でできるのだろうか?
「‥‥しっかりするのよ、小夜」
最近は、以前よりも時雨に気を許し始めているの部分があるのは否定できない。
けれど、相手が誰であろうとこれだけ側にいれば、少なからず情は移ってしまうものだ。
嫌いなことに変わりはないけれど、稀に悪くないと思ってしまう時があるのも事実。
ーー仕方ないだろう。
私は、生まれてきてからずっと独りで、常に他者から否定され、蔑まれ、邪魔者扱いされて生きてきたんだ。
どんな形であれ、求められることに対して何も感じないわけがない。
‥‥だからこそ、怖いんだ。
怖くて怖くてたまらないこと、それはこの環境に慣れてしまうことだ。
常に誰かが側にいて私を受け入れてくれる人がいる。
そんな嘘みたいな今は、いずれ無くなり元の現実に戻らなくてはならない。
一体、いつまで続くのだろうか。
時雨の歪んだ私への執着心は。
早く薄れて、手放してくれたらいいのに‥‥。
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