第49話





目の前に並ぶヘルシーな料理の数々。




状況が理解できずに、無名と目を合わせて互いに首を傾げる。



いつもは食べきれないほどの見事な季節感溢れる日本料理が出てくるけれど、今日は違った。



量もいつもの半分以下で、全体的に野菜が多い。






「早く食べろ。残したらただじゃおかないからな」




腕を組む時雨が見張るようにして目を光らせている。







「‥‥あの、これは?」


「見て分かるだろ」


「なんか、いつもと違うような気がするんだけど」


「うちには不健康な生活を送り案の定寝込んだ馬鹿が2人もいるからな。特別に作らせた」


「‥‥」


「拒否権はないぞ。最終手段としてはその口こじ開けてでも食わせるからな」






時雨に従順な無名が抵抗なんてするはずもなく、さっそく食べていた。



それを横目で見ながら、ここに連れてこられた当初、反抗心から断食をして倒れて、時雨に無理矢理食べさせられたことを思い出す。



窒息死するかと思うくらいに強引に突っ込まれるから、苦しさのあまり殺されるんじゃないかと思ったくらいだ。



あれは、食事というより息の根を止める行為だった。






「待って、食べるから。ちゃんと食べるから」





抵抗すると思われたのか、立ち上がって近づいてくる時雨を必死で止める。






「なら、早く食べろ」




席に戻り、目を閉じた時雨。



その姿を見て安心した私は、溜息を吐くと近くのスープを飲んだ。







「これから毎日、似たような食事を3食用意させる。一回でも残したらーー分かるな?」




食事を終えたのを見計らい目を開けた時雨は、そんな脅し以外の何ものでもないことを告げると、げんなりとする私を何故か抱え上げて部屋に戻った。

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