第36話

「なあ、小夜」




腕の温かさに涙が溢れた。







「どうして〝あの女〟なんだよ」




不機嫌な声で、責めるような言い方をする。








「どうして俺の名を呼ばない?」




拗ねたように言うと、髪を梳くように撫でた。









「お前の側にいるのは俺だろ?」




温もりを求めるようにしがみ付くと、抱き締める力を強めてくれる。




ーーああ、これが現実だったらいいのに。








「俺を、頼れよ」




意識が‥‥遠退いていく。









「そうしたらーー」





らしくもなく、切なさを含ませて呟いたその言葉を、聞き取ることはできなかった。

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