第30話
◇
よくあることだが、ふとした瞬間に昔の家にいることがある。
いるといっても、本当にそこにいるわけではなく、言うなれば意識だけがそこに取り残されているような錯覚を覚えるのだ。
夢というにはリアルすぎて、現実というにはあまりに不確か。
それはまるで、夢と現実の狭間の世界を行き来しているようでーー。
その度に、私は私という存在が何処に居るのか、一体何者なのかが分からなくなって怖くなる。
『‥‥‥っ』
遠い場所から誰かの声がするが、くぐもっているせいで聞き取れない。
キーンと耳鳴りがした。
それだけではない、息が苦しくて息を吸い込もうとするのに、ヒューヒューやゼイゼイとする音がするだけで一向に呼吸ができない。
時折激しく咳き込み、生理的な涙が溢れる。
冷たい床の上、見慣れた玄関のドア前で横たわる小さな体。
これはーー昔の私だ。
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