彷徨う

第26話

時雨から解放されたのは、無名が退院して一之瀬組に帰ってきてからだった。



その頃には長期休暇は終わり、大学は始まってしまっていた。



疲労のため、何日か死んだように眠っていたこともあり溜まっていた課題に追われている。







「おお、早かったな」




研究室に入ると、私を見て感心するような声を出す若い男性。



若い、といっても20代後半だけど。








「課題を持ってきました。すみません、遅れてしまって‥‥」


「ん?期限もないし全然構わないぞ。そもそも出すやつの方が少ないからな〜」





ぎん先生は相変わらずのゆるさだ。



そのゆるさのあまり学生からは〝ギンギン〟なんて呼ばれ方をしているし、基本的にタメ口で完全に舐められているとしか思えない。


出席さえしておけば単位は必ず取れるというのはさすがにどうかと思ったが、それなりに筋の通っているところがあり、一度教室が騒がし過ぎて授業にならなかった際に、雑談を交わす生徒に向かって怒った時があった。






『履き違えるな、単位目当てに適当に授業を受けるのはお前らの勝手だが、それで真面目に授業を受けてるやつの妨害していい理由にはならない。邪魔をするなら出て行け、幾ら成績が優秀だとしてもお前らにくれてやる単位はない』




声を荒げるわけでも、怒りを露わにするわけでもなく、冷淡にそう言い放った銀先生は不意にも格好良くて。



その時のこともあってか、生徒間ではかなり人気があるらしい。

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