第25話

私には心なんてものはない。



生まれてきてから、負の感情だけを一心に向けられてきた。



その度に、心が死んでいくのを感じていた。



人から与えられる執着心も関心も、私には無縁のものだと思っていた。


 

だからそれを、異常なまでに押し付けてくる時雨が怖いんだ。



ずっと欲してきたものを、喉から手が出るほどに求めていたものを、今になって与えられても私にはそれを受け止めるだけの心はない。



生きている意味も、生きていくだけの理由もないのだから、それならいっそ私を求めてくる時雨に差し出してしまえば少しは楽になるのかもしれない。



どうせ長くは続かないのだから、いつかは飽きられるのだから、それまでは好きなだけ弄んで捨てればいい。



そうすれば、この世界から消えるだけの理由が見つかる気がする。



ーー例え、自ら命を絶ったとしても、許される気がする。







存在理由なんていらない。




それが手に入らないことは、身をもって知っているからーー。




生きる理由が手に入らないのならば、

せめて‥‥死ぬ理由がほしい。






でなければ、何故今を生きているのか分からないじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る