第5話






ホワイトボートに喋りかけているのかと勘違いしそうなくらいに、講義中は一度も振り向かないことで有名な中年の男性講師の声が、まるで念仏のように聞こえる。




生徒間で坊さんなんてあだ名があるのも頷ける。




一部はそれを子守唄歌代わりに爆睡し、他の生徒はスマホを弄ったり雑談をしたりと、好き放題にしている。



全ての講義が終わった後にノートを提出することは最初に説明されたのだが、それを聞いていたのは極一部だけだろう。




厄介なことに、この講師は一回の講義でノートに見開き5ページ以上は書かなくてはならない。



だから、寝られるわけがない。



それなのに、長いこと誰かさんに肉体的にも精神的にも追い詰められていたせいで、何度目をこじ開けたところで、下がってくる瞼やら頭やらに耐えるだけの気力はなかった。



友達はおろか、知人と呼べるほどの相手もいない私にはノートを見せてもらう人なんていない。




ここで寝たらお終いだ。




寝るな、寝るな‥‥。




手を抓って必死に耐えるも、強烈な睡魔に勝てるはずもなく。




やがて、意識を手放してしまった。

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