第3話

あの雨の日に、気の迷いから声をかけたのが全ての元凶だったんだ。



同じ大学に通っているということもあり、時雨の存在は以前から知っていた。



遠巻きに見たこともあるが、話すことはおろか視線を交えることもなかった。



元より住んでいる世界が違いすぎる。



極道なんて、一番関わり合いを持ちたくない人種だし、出来ることならば今すぐにでもこの関係を打ち消したい。



これから長い人生が待っているのに、こんなところで裏社会に足を踏み入れるなんて御免だ。







「単位が足りないせいで、卒業できなくなっても知らねぇからな」






私の髪を弄びながらそんなことをほざく男に気付かれないように心の中で毒を吐く。




‥‥単位が危ういのは、一体誰のせいだと?




毎晩毎晩、こいつの気がすむまでベットに縫い付けられるせいで体が持たない。




馬鹿みたいに体力あるのよ、この男。




今まで不健康な生活を送ってきたせいで体が貧弱なせいもあるけど、それをものともしないこいつが悪いんだ。


起き上がろうにも体が悲鳴を上げるだけで、身動きすらまともにできない。








「あ?何だよ」




その上、酷く喉が乾いており、水分を欲して手を伸ばすが察するどころか睨まれた。








「‥‥水」



「カッスカスだな、声」




全ての元凶のくせに、鼻で笑い飛ばすこいつは本当にいい根性をしていると思う。



横たわる私に向かってペットボトルを投げてよこすな。



少しぐらい気遣いなさいよ。



この唐変木。








「いつまで寝転がってんだよ」



「‥‥動けないのよ」







誰かさんのせいでね。




そんなことも言わないと分からないの?

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