第2話

この男、一之瀬 時雨いちのせ しぐれに囚われてから2ヶ月ほど経過した。



一時期は外に出ることすら叶わずに、この部屋に枷を付けられた状態で監禁されていたが、最近では大学に通う時だけは外に出ることを許されている。



それ以外ではこの広すぎる部屋に閉じ込められ、悪魔のような男の帰りを待つだけの日々に耐えられることなく、何度も逃亡を試みたが、全て未遂に終わった。



その度にこうして酷く抱かれ、手錠を付けられては監禁される。



掛け持ちしていたアルバイトも強制的に辞めさせられて、住んでいたアパートも解約された。



何故そんな真似ができたかというと、時雨が業界最強を謳われる一之瀬組の若頭だからだ。



誰であろうと例外なく、一之瀬組には逆らえない。



逆らえば最後、死よりも残酷な未来が待っているらしい。



けれど、そんな恐ろしい場所に身を置いているという実感が未だに湧かない。



というのも、ここは時雨が両親と同じ建物に住むことを嫌い、離れに作らせた屋敷だからというのもあるかもしれない。







「おい」


「‥‥‥」


「おい、起きろ」





疲労のあまり死んだように眠っていると、こんな目に合わせた張本人が不機嫌な声で起こす。



少し動いただけで鈍く痛む身体に顔を顰めた。



手錠は外してあるが、長時間つけられていたせいで跡になっているし、体中に散らばる赤い痕はいつにも増して量が多い。



所謂キスマークというやつなんだろうが、これはそんな生易しいものじゃない。







〝所有物の証〟




こいつの異常なまでの執着心は、狂気じみている。



何せ、初めて会った他人をその日の内にここに連れてきたくらいだ。



何となく声をかけて、何となく家に入れて、流れでそういう雰囲気になって、目が覚めた時にはこの部屋に監禁されていた。



その間、気に入られる要素もなければ、関心を向けられるような出来事もなかった。



ましてや、初対面の相手に体を許したのだから軽蔑されてもおかしくはないだろう。



だからこそ、どうしてこんなことになったのかは私が一番分からないんだ。

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