第6話 魔法つかいサキュバス

 唐突な話だが、冒険者としての俺の職業クラス斥候スカウトと呼ばれるものである。

 戦いの際には短剣と短弓ボウガンを装備し、表立って敵と斬り合ったりはしない。影に隠れてこそこそと戦って、自前の火力で倒せなさそうなら撤退するのが性に合ってる、姑息で臆病な役職である。


 何が言いたいって、間違っても戦闘向きの職業ではないってことだ。

 かつては戦士や魔法使いに憧れたが、そんな才能は俺にはなかった。どんな世界も、花形を張れる人間は限られてるっていうわけだ。


 ……で、だ。


「はいドーン☆」


 ド派手な雷魔法が俺の目の前で敵を貫く。貫かれたグリーンスライムは、「ピギャッ」と悲鳴らしき音を上げて瞬く間に形を保てぬ、ただの緑色の粘液へと還っていった。


 ギルドの掲示板に張り出されていた、「ミズモ粘窟で異常増殖したグリーンスライムの群れ討伐」依頼。

 結局サキュバスに押し切られる形で引き受けることになった、Dランクの依頼である。


 当初は、かなり苦戦することになるはずだった依頼だが、そんな予想は開幕序盤であっけなく裏切られた。

 なんとサキュバスが魔法の使い手だったのだ。それも、かなり高度な攻撃魔法まで操れる類の。


 今も、「そらー!」とか「どりゃー!」とか言いながら、片っ端から現れるグリーンスライムを氷漬けにしたり、炎で焼いたり、雷で貫いたり、まあ随分とやりたい放題をかましている。

 俺? サキュバスの後ろでその光景をポカンと眺めてますが、何か? だってやることねえんだもん。


「……っ」


 なんて油断してたら、背後から不意に嫌な気配を感じた。

 とっさに振り向きつつ、素早く短剣を抜いて背後を切り払えば、サキュバスの討ち漏らしたグリーンスライムが斬った衝撃で地面にびちゃっと着地する。


 だが、スライム系のモンスターは物理攻撃の効きがあまり良くない。すぐにもぞもぞと動き出した。

 仕方なく俺はため息をついて、常に携帯している鞄の中へと片手を突っ込む。


 そして引っ張り出すのは、呪符と呼ばれる類の道具アイテムだ。

 その札を自身の短剣へと貼り付けて、「燃えよ」と呪符を起動させるための文言を唱える。


 すると呪符はボウっと燃え上がり、短剣には炎がまとわりついた。

 呪符――一定時間、自分の装備品に、魔力的な属性を付加するマジックアイテムだ。


 魔力を付与した短剣で再度斬り付ければ、スライムはたちどころにただの粘液へと還っていった。


「ふぅ……」


 耐久力自体は低いため、Dランクに位置するスライムだが、俺一人で相手することを考えると呪符が必要となるためコスパが悪い。

 それもあって、スライムの相手をするのはけっこう苦手だ。純粋に呪符がな……一枚一枚は大した額ではないにしても、嵩めばそれだけお財布に痛いのだ。


 そんなことを思いながら、改めてサキュバスの方へと視線を向ければ……。


「おにーさん、こっち終わったよぉ♪」


 ……緑色の粘液まみれになったサキュバスが、良い感じの笑顔でこちらに向かって手を振っていた。


「お、おお……お疲れ。にしても、すごいなお前……」

「でっしょー。まあサキュバスって本来、魔法的な種族だから、みんなけっこう魔法得意なんだよね。……わたしは落ちこぼれってよく言われてたけど」

「落ちこぼれ? これだけ魔法が使えてか?」

「……魅惑チャーム使えないコはサキュバス的にはダメなコ扱いだから……」


 お、おう……。

 冒険者的にはマジで役に立たないけどな、魅惑チャームって。


 とはいえ、この辺は種族的な価値観もあるのだろう。冷静に考えたら、サキュバス的には魔物狩る能力より人間狩る能力の方がダイレクトに生存に直結するし。


「あ、それよりおにーさん。スライムの粘液、集めないと!」

「集める? 別に素材的にはスライムっておいしくないぞ。売ったところでそんな金には……」

「え? 売るんじゃなくて、使うんだよ」

「使う……?」


 サキュバスの言葉に疑問を覚え、俺が眉を寄せると、彼女はしなを作って俺にすっとすり寄ってくる。


 それからもじもじしながら、上目遣いでこちらを見上げてきて、言った。


「スライムローション作ってぇ……ね? とっても気持ちいいコト、してあげるぅ♡」

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