第5話 冒険者サキュバス

 なんだかんだサキュバスと言葉を交わしている間に、冒険者ギルドへと到着した。

 周囲にも冒険者らしい装いの者が増えており、中にはパーティを組んでいるのか複数人で連れ立って行動している人たちの姿も見える。


 そんな冒険者たちの間を通り抜け、俺はサキュバスを伴い、建物の中へと入っていく。

 そのまま受付カウンターを目指した。


「どうも。何か良い依頼はないか?」


 冒険者ライセンスカードを受付嬢に見せつつ、俺はそう口にする。

 受付嬢はカードの内容を確認すると、「少々お待ちください」と言ってから席を立つ。

 それからほどなくして、それなりに分厚さのある冊子を手に戻ってきた。冒険者ギルドの受託している依頼帳である。


「Dランク帯の冒険者様だと、この辺りのご依頼がまだ残っていますね」


 そう言いながら、依頼帳の該当するページを開いて、受付嬢が差し出してくる。

 中を覗いて確認してみれば、楽でおいしい依頼はもうあまり残ってはいなさそうであった。


「うーん、どうにもパッとしないな。先週まで募集してた、街の外壁工事とかはもうないのか?」

「それがつい先日、工事も完了してしまいまして……」

「ってなると、教会施設の花壇整備とか、そういうのなら残ってるみたいだけど……Eランクの依頼か。さすがに金がシブいなぁ……」


 依頼のランクは、その依頼の難易度と報酬によって区別される。

 一般的には、より難易度や危険度の高い依頼であればあるほどランクが高く、その分報酬もそれに見合ったものとなる。


 例えばEランク帯の依頼ならば、薬草採取や草むしり、荷物の番や脱走したペットの捜索などといったものが多く、安全な代わりにもらえる報酬は多くない。

 一方でDランク帯にもなれば、ある程度事故などによる負傷リスクを伴う依頼が増え、その分もらえる報酬も一気に上がる。モンスター討伐の依頼などがちらほら出始めるのも、Dランク帯の依頼からだ。


 そういった依頼の中でも、俺は工事や採掘などといった依頼を好んで引き受けていた。

 モンスターと戦うより、よほど安全を確保しやすいためである。俺は臆病な人間だから、なるべく斬った張ったはしたくないのだ。


 しかし、依頼帳を見る限り、今あるDランクの依頼はモンスターの討伐ばかり。

 正直しょっぱいなぁ、と思っていたら、くいくいっと不意に袖を引かれた。


「ねえねえ、おにーさん。あそこにあるのはなんなの?」

「ん? あー……」


 袖を引くサキュバスの指さす方へと視線を向け、俺は思わず眉を寄せる。

 彼女が示していたのは、ギルド内にある掲示板だ。


 掲示板には、ギルド側が冒険者に受けてほしい依頼が普段、張り出されている。

 依頼帳にあるものとは違い、掲示板の依頼は達成した際にギルド側からの特別手当が出る。

 そのことを説明すると、サキュバスの目がパッと輝いた。


「じゃあ、あそこにある依頼受けたらいいんじゃない? たくさんお金もらえるんでしょ!」

「あのなぁ……」


 発想のあまりの単純さに、俺は思わずため息をついた。


「特別手当が出るってことは、危険な依頼だってことだろ。Dランクの依頼なんかあってたまるか」

「あのー……」


 俺の言葉に、受付嬢がおずおずと手を上げる。


「一件ですけど、ありますよ」

「は?」

「掲示板に張り出されている、Dランクの依頼です。パーティ向けの依頼で、二人以上の冒険者様でないと受けることはできませんが……」

「はぁ……あ、いや、だからって危ない依頼を受けるつもりは……」

「受けます!」


 俺の言葉を遮って、サキュバスが口を挟んできた。


「は?」


 思わず俺は目を丸くする。何言ってんだ、コイツ?

 ポカンとする俺をよそに、サキュバスはさらに言葉を続けた。


「わたしたち、その依頼受けます! おにーさんとわたしならやれるやれる♪」


 ……いややらんが?

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