第21話 稲守任三郎と加賀
一体どんなメニューなのかはわからないが、悩まず決めたという事はよく食べているのだろう。
加賀が受付に行くのを見送り、次は稲守の番だ。
「ふむ・・・」
この場所での初めての食事というのもあり、奇をてらって失敗するよりかは字面でわかる物がベストと判断し、もっとも無難であろう鳥(形成)のからあげ定食に決めた。
もちろんライス大盛だ。
券を見ると、半分に切れるようになっており片側を受付に渡し、もう半分は自分が持って番号で呼ばれるのを待つ方式のようだ。
コップに水を入れ、席を探すが、殆どの席がまばらではあるが人が使っており、空いている席が見当たらない。
(これ部屋まで持っていけないかな・・・)
席を探しつつ悩んでいると、窓の外、ベランダに席があるのを発見した。
(お、しかも誰もいない。あそこで食べよう)
年末と言う事もあり、気温が低いからか人気が無いのだろう。
水をちびちび飲みつつ、番号で呼ばれるのを待っていると、時間帯がよかったのか直ぐに呼ばれる。
券を渡し、からあげ定食を受け取り、ベランダに出る。
幸い風は無く凍えずに済みそうだ。
「さて・・・」
トレーには、からあげ7個、お新香にお味噌汁、サラダと山盛りご飯が乗せられていた。
からあげを食べ、ご飯、みそ汁と食事をしていると、ベランダの扉が開く音がする。
(誰だろう)
入ってきたのは加賀だった。
「ご一緒してもよろしいですか?」
「・・・えぇいいですよ」
正直このまま1人で食事を楽しみたかったが、断るとこれからの関係がややこしくなる為、仕方なくだ。
少し離れた机に座った加賀は持ってきた食事をそこそこに話しかけてくる。
「稲守様申し訳ございません・・・」
「・・・何がです?」
見覚えのない謝罪に困惑する。
「一緒に歩いてわかりました。職員からの視線、嫌でしたよね・・・」
「・・・」
「配慮が足らず申し訳ございません。本来ならば食事等も自室へ手配するのが最善でした。それに武具も手配もそうです・・・」
少し緊張していた様子だったのはこういう事だったのか。
つらつらとダンジョンでの出口の扉だとか、ダンジョン品の回収方法だの、改善点ばかりでもう敷けないと重ねて謝る加賀。
「謝罪を受け入れます。ダンジョンなんて突然出来てそれに対応しろだなんて正直無茶言う政府だなと個人的には思います。でも自分は楽しいんです」
「楽しい・・・?」
「えぇ、今まで趣味で狩猟したりしてましたが、生活するにはアルバイトをしたり、何処かの会社で働かないといけません。でもゲームや漫画で見たような世界に行って、何かを持ち帰るだけでお金ももらえて食事もとれて好きな事できるってのは男の夢、みたいなものじゃないですかね」
みそ汁を啜り、言葉を続ける。
「大体の人がこの状況を押し付けられてるんです。そこまで気にしなくても良いと思いますよ?それに個人的には手配も早いし要望も聞いてくれるし、武具だって用意してくれて、至れり尽くせりですよ」
「・・・ありがとうございます」
「食事も冷めちゃいますし食べましょ?」
「そうですね!」
笑顔になった加賀を初めて見た稲守はやはり美人には笑顔が似合うなぁと思いつつ、食事を続ける。
「あ、そういえば以前おっしゃっていた武器の制限解除なのですが、ついでに近接戦闘訓練もしたいのですがそういった事はできますか?」
「近接戦闘ですか?」
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