第20話  稲守任三郎の報告とダンジョン庁

(声に出したら止まった。でもなんだろう、これ以上はもう魔法が使えない気がする)


コップ1/10程に貯まった微量の水を眺める稲守。


(しかしまさか魔法が使えるようになるなんてな・・・。これ・・・報告したらどうなるんだ?実験体にでもなってしまうんじゃないか?)


報告するか否は置いておいて、魔法を使ったせいか小腹が空いたので食堂へいく事にした。


~加賀side~


加賀は研究所から送られてきた稲守の成果の調査報告書を見ていた。


稲守が持ち帰った魚は、イイオカダンジョンイワシと命名された。

とても安直だが、日本が付ける名前はこういうのが多い為、あまり気にはならない。


そのイワシは血液とは別の体液によって活動しているが、あらゆる検査をしても機械に反応が出なかったらしい。


水も同様で、水質検査をするが山の湧き水のような成分で、ミネラルや鉄が豊富で、菌類が存在しないらしいのだ。


(菌類が居ない?って事は湧き水ってそういうのがいるのね・・・)


他にはイワシの身が大きいだとか、練りエサを食べる等といった内容で、今は繁殖できるかどうかの調査をしているのだそうだ。


(繁殖出来たら海流の変化でいなくなったイワシがまた獲れるのかーイワシいいなー)


報告書をめくり、最後のページにある要望書と書かれた用紙を見る。


(えーっと水をもっと欲しい、イワシを数匹、鉱石も種類があれば検証用に・・・。言えば取ってきてくれそうだけど・・・やっぱ運搬用のカートみたいなの用意して上げないときついわよね・・・でも音が出るって言ってたし・・・)


武器に食料だけじゃなく、様ざまな物を持って入る稲守のバッグは見てわかる程度にはパンパンに膨らんでいた。


(上司も言ってたし早く許可を貰おう!)


報告書を閉じ、小腹が減った加賀は売店へ行くことにした。


~稲守side~


「飯どうすっかなー・・・」


呟きながらエレベーターの中でひとりごちる。


(成形食料じゃ正直な・・・山で熊かキョンでも狩りたいもんだよ)


現状の日本では過去に畜産撲滅運動があった影響で、牛、豚、鳥と言った食肉文化が衰退してしまい、入手困難なのだ。

おまけに海流の変化で、海の魚は取れず、川魚は乱獲によって野生絶滅生物に分類されてしまい、今は大豆ミートや人口肉をメインとしたものになっている。

他の国も同様で輸入に頼れない為、現在本物の肉を食べたければ、野生動物を自らの手で狩るしかないのだ。


何を食べるか考えていると、食堂のある階層の二つほど手前の階でエレベーターが停止した。扉が開くと、見覚えのある女性が入ってくる。


「あっ、稲守様、お疲れ様です」


軍服ではなく、カジュアルな服を着た加賀だった。


「お疲れ様です。何階に降りますか?」


「1Fに・・・行先同じですね」


そのまま会話も無く、エレベーターが動き、食堂のある1Fに止まる。


「そういえば稲守様は食堂の利用方法はわかりますか?」


「あっ、そういえば初めてですね」


「では、私に着いてきてください」


加賀に案内され、食堂の中を通ると、売店に行った時と同じ様に、周囲からの目線を感じる。


「この食堂は無料で利用できます。食券機もボタンを押すだけで切符がでますので、あちらの受付に渡してください」


「ありがとうございます。何にするかな・・・・」


メニューは様々で、うどんやそば、ラーメンまであり、定食も何種類かある。

加賀が選んでいるのを後ろで見ていると、彼女はどうやらレディースランチAを頼むようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る