第18話 稲守任三郎とダンジョンの水

眠ってから数時間が経過し、稲守が目覚める。

長時間眠っていたからか、喉が渇きバッグを漁るがまだ残っていたはずの水分補給ゼリーがない事に首を傾げる。


(おかしいな・・・まだあったはずだが)


記憶と違う事に疑問を持ちつつ、長時間眠ってしまった事や、録画していた端末、倒したオークの事を思い出す。


(そうだ、オーク)


銃を構えつつ、オークエリアに戻ると、オークの死体は消えているが、再出現はしていない様子だった。


(再出現に時間がかかるのだろうか?)


とりあえず今回は弾薬も少ない上、水も何故か消えてしまい継続不可と判断した。


端末を回収し、荷物をまとめて通路へと戻り入口へ向けて歩くが、喉が渇いて仕方ない稲守はサハギンエリアの池の水を飲んでみる事にした。


(倒れるよりかは絶対マシだ。ろ過装置をつかってさらに煮沸でもすれば問題無いだろう)


今回は念の為に持ってきていた小型ガスコンロもあるし準備は万端だ。


岩山エリアを抜け、サハギンエリアについた稲守はいつもの如く空薬莢を池に投げ込みサハギンを釣り出し、銃で撃つ。


(サハギンとゴブリンは余裕だな・・・)


死体を放置し、その場で飲みたい欲求を押し殺し、荷物を降ろす。

それからバッグから筒状の物を取り出し、組み立て始める。


今回持ってきたのは、チューブを接続すれば直接水源から水を飲む事ができるタイプで、日本ではあまり使われていない。

念の為山の水溜りの泥酔で試したが正常に動作した事は確認している。


流れのある滝へと向かい、ろ過装置につけた漏斗を滝に向け、水をろ過装置へと通しチタン合金のカップへと水を貯める。


(見るだけじゃわからないな・・)


本来ならここから煮沸して蒸留までするのだが、我慢しきれず飲んでしまう。。


ゴクゴクゴク。


「プハァ!」


稲守の持つ山の湧き水と似ており、水温はそれほど低くなく、するすると喉を通り、どうせならとろ過装置から直接水を飲む。


(生き返るとはこの事だな)


喉を潤し、荷物を纏め、出口へと急ぐ。


(腹を壊すにしてもせめてダンジョンを出てからにしたい)


毎度の如く閉まっている扉の前で、携帯端末を開き加賀へと連絡する。


「稲守です。今戻りました」


『承知しました、少々お待ちください』


加賀も慣れたのか、前までと同じような声色で事務的に返事をする。


少しすると扉が開き、稲守を出迎えたのは加賀といつもの軍服の男女、そして一度帰還した時に魚を回収した白衣を着た男性2名だ。


「お疲れ様です。一時的ではありますが、今後は彼等にダンジョンで収集したものをお預けください」


「わかりました。ただ今回は収集した物は無くて報告書だけになるのですが・・・」


「承知しました。報告書をお待ちしております」


その後は、最初と同じ様にホテルへと連れてかれる間の社内、加賀が気になった事があったので、稲守に聞く事にした。


「稲守様、先日提案しました銃火器の件ですが、御貸しできる銃の一覧がありますので、後程端末へ送らせていただきます」


「そうですか!よかったー・・・」


「何かあったのですか?」


「実は、えっと報告書に詳細は書きますが、ゲームでいうオーク?見たいな、二足歩行の豚がいまして」


「オーク・・・?」


「武器の発射音を聞いてから防御する程の反応速度があって正直焦りましたよ、ハハハ」

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