第8話 稲守任三郎と初ダンジョン探索

永遠とも思える時間を感じつつ、ゴブリンが動かないのを確認した稲守はトリガーから指を離すが油断はせず銃はゴブリンへと向けたまま近づく。


あおい血が頭部から流れており、表情はきょとんとした表情だった。


「ふー・・・」


息を吐くが、緊張はある程度残しつつゴブリンのすぐそばまで近づく。


(さて、ゴブリンの討伐証明の定番は耳だったか?)


ナイフで耳を切り落とし、真空袋へ入れ、バッグへとしまう。


(しかし、この広い空間に一体だけって贅沢過ぎないか?)


周囲を見渡しても新たにゴブリンが出現する様子も無い。


(そういえばこいつの死体はどうするんだ?)


周囲へと向けていた目線をゴブリンへと向けると、ゴブリンの死体が吸い込まれるように地面へと沈んでいく様子が目にはいる。


(なるほど、こういう事か・・・つまりは・・・)


「ギャギャーーーー!!!!」


上から鳴き声と共にゴブリンが落下してくる。


ドスン。


「ンギャ?」


(幸い後ろを向いてくれている、これなら間に合うな)


銃を構え、先ほどと同じ様にゴブリンの頭部へと銃を向け、引き金を引く。


ドンッ


「ギ!」


今度は前のめりにゴブリンが倒れる。


(これなら森で熊狩ってる方が緊張感があるな)


それからゴブリンが再出現する条件を探る為、検証する事数時間。


結果、ゴブリンが絶命してから10分が経過すると、新たなゴブリンが天井から落ちてくるようだ。落下ダメージは無さそうだ。

また、ゴブリンの討伐証明である耳を削いだ場合は30秒以内にゴブリンが地面へと吸い込まれ、全身が沈むと同時にゴブリンが上から降ってくるようだ。


再び降ってきたゴブリンを着地と同時に倒して、奥の道へと進む。


警戒しつつ進行していると、奥から水の流れる音が聞こえてきた。


『ザーーーーーーーーー』


(水生生物でもいると厄介だな・・・)


水の音がするエリアに入る前に、軽食を取りつつ携帯端末にゴブリンの情報や、再出現の条件を打ち込んでいく。


(銃だけだと不安だし、近接戦も視野にいれないと)


先ほどの戦闘を脳内で振り返りつつ、帰ったら近接武器の講師がいないかダンジョン庁に確認すると決めた稲守は、携帯端末をしまい、銃を構え、水の音がするエリアへと進む。


(おいおいおいなんだこりゃ・・・)


中央には池なのか水がたまっており、入口を南とするならば東方面には滝が落ち、滝壺を形成している。

エリア自体は狭く、ゴブリンがいたエリアの1/3程度だろうか。

池を囲むように陸地がありそこを通れと言わんばかりだ。


(くそっ、滝の音が邪魔だ)


先ほどのエリアの様に何もない場所なら索敵は簡単だが、このように環境音が大きいと足音も聞こえない為、索敵が一気に難しくなる。

こちら側にも相手から探知されにくいというメリットもあるが、微妙なところだ。


とりあえず目視でモンスターが居ないかを確認する稲守は、壁を伝いながら奥へと向かう。


(壁を背にしておけば少なくとも背後からはこれないだろ)


銃を構えつつゆっくりと歩く。

池の周りには草花が生えているが、虫はおろか生物の気配がない。


そのまま壁伝いに歩いていると奥に続くエリアの出口が見えてきた。


(本当になにもいない?いや、まだ池を見ていないな)


周囲を警戒しつつ池へと近づく。


ビチャンという音と共に水面に波紋が広がる。


(何かいる!)


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