第6話 稲守任三郎とダンジョン初日

 朝、起きてすぐに、荷物を整理しつつダンジョンへと備える。


(ここにきて緊張してきたな・・・・)


忘れ物が無いか、食料は十分か、武器は、防具は、ヘッドライトはとバッグの中身を確認しつつダンジョンの情報を整理する。


飯岡ダンジョンは洞窟型という情報で、調査したのは2階層まで、それも2階層目は入口のみで、1階層も満足にはできないような状態だ。

アプリ内にあるダンジョンマップも明らかに中途半端な所で途切れているように見える。


(どうして中断したのかぐらいは記載してほしいものだ・・・お役所仕事ってのは所詮こんあものって事かね)


マップを見ながら内心で悪態をつきつつ、朝食用のエナジーバーを齧る。


(ん?分かれ道なのに一方にしか進んでいない。それも1か所ではなく何か所も)


1階層のマップを確認していると、分かれ道の多くが1方向にしか行ってないのを発見した。


(これは一人で入ったんじゃないか?)


モンスターの出現ポイントと書かれた場所は、用意されたように広く描かれているが、通路には何もなく、ただ暗いとしか書かれていない。


(まぁ、ここであーだこーだ考えても仕方ないし・・・そろそろ行くか!)


荷物を背負い、頬を両手でパンと叩き気合を入れる。


朝早いからか誰もおらず、嫌な視線も無い。

タクシー乗り場に行くと1台のタクシーが停車しており、運転手が車の前で待っていた。


「稲守です。依頼したタクシーで合ってますか?」


運転手であろう黒いスーツに黒いサングラスをかけた男性に声を掛けてみる。


「本人確認の為、端末を確認させてください」


言われた通り端末を運転手に渡す。

運転手をサングラスの縁を押すような仕草をして、裏表、側面と何かを探しているのか端末の向きを変えながら見ている。


「確認が取れました。荷物は後ろに入れず、座席へ置いてください」


自分が見る分にはこの端末はただ黒いケースに入った大き目ののスマートフォンにしか見えないのだが、サングラスに何か仕込まれているのだろうか。


言われた通り荷物と一緒に後部座席に乗ると、特に何も言っていないのに車が発進する。


「稲守様、ダンジョンへ行く場合、途中下車する事はできませんので、ご了承ください」


「問題ありません。到着までどのくらい掛かりますか?」


「20分弱かと」


雑談も無く、流れる景色を眺める。

県道を通り、田舎道を通り、丘陵地帯へと進んで行く。


(山と景色は近いな)


一体どこまで行くのかと思っていると、山林の中に舗装された道路が現れ、さらに数分進むと、奥に高速の料金所のような、ゲートのようなものが見え始めた。

そのゲートの前でタクシーが停まると同時に、ゲート脇にある小屋から軍服を着た男性二人が出てきて声をかけてきた。


「身分証明書か端末の提示を、後部座席の方もお願いします」


運転手は免許証、俺は携帯端末を軍服の男性達に見せる。


「確認が取れました。先にお進みください」


ゲートが開き、タクシーはそのまま直進。

数分と経たずに先ほどのゲートより少し大きい似たような造りのゲートの前で再びタクシーが止まる。


「それでは稲守様、ここからはおひとりで進む事になります。ご乗車ありがとうございました」


料金はいらないのか追い出されるようにタクシーから降ろされ、そのままゲートの隣にある受付のような場所に行くと軍服を着た男女、それも見覚えのある二人がそこにいた。


「お待ちしておりました稲守様」


「あなた方はあの時の・・・。一つ、聞きたい事があるのですが・・・」


「どうぞ」


「中にはどのぐらいの時間入っていても良いのですか?」


「特に制限はございません。しかし事前に申告せずに1週間を超えた場合、死亡したと判断する様にと言われております。」

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