第5話 稲守任三郎とダンジョン調査前日

あれから2週間が経過した。


選んだ武器の整備やライフルの試射をしながら、ダンジョン調査に使う収集物を保存する容器等の道具を用意しつつ過ごし、いよいよ初のダンジョン調査を明日に控えた稲守は、予定地である千葉県旭市にある飯岡ダンジョンに近いとされているホテルに泊まっていた。


聞くところによると、このホテルは政府が管理している施設で、有刺鉄線に囲まれている上、電気柵も設置されており、さらには巡回する警備員も配置されており外部から侵入者が入れないようになっている。

中には訓練場はもちろん武具の整備ができる設備や、弾丸等を買う場所もあり、とても充実していた。


(20ゲージ用のスラッグ弾30発、弾倉三つ。ナイフも研いだ、食料も三日分、水分とエネルギー補給ができるゼリー飲料、そしてダンジョン内部に水があるかは不明だがろ過装置もある。個人的には準備万端だが・・・あ、ヘッドライト買ってない!)


自室となっている部屋から出て、3Fの売店へと向かう。

エレベーターから降り、ヘッドライトが無いか探していると、このホテルで政府関係者ではない人間がいるのが珍しいのか、あちこちから視線を感じる。


(あまりじろじろ見られるのはいい気分じゃないが、仕方ないっちゃあ仕方ない)


気にしない風を装い、ヘッドライトや懐中電灯が無いか探すが見当たらず、面倒だがロビーの案内所で聞くことにした。


「すみません、ヘッドライトを探しているのですが・・・」


「ヘッドライトですか・・・少々お待ちください」


受付には女性が二人、その内の一人が端末を操作し商品を探していると、もう一人の女性が声をかけてきた。


「すみません、貴方はどちらの所属になりますか・・・?」


質問と同時に、周囲の視線が再び自分に集まるのを感じる。


「・・・・」


機密事項に当たる為、どう答えるか考えていると、ヘッドライトを探していた女性が顔を上げる。


「ヘッドライトは奥の武具コーナーの4番棚にありますので、そちらでお求め頂けます」


「ありがとう。行ってみるよ」


救いの手によって、そそくさと言われた通り武具コーナーへと向かう。


(さてヘッドライトヘッドライトっと・・・)


ヘッドライトも何種類かあり、どれが良いか悩んだが、バッテリー駆動で照射角が広角タイプのものを選んだ。

合わせて予備バッテリーを数個、充電器、乾電池が使用可能な電池BOXを手に取り、無人レジで会計を済ませる。


(こんなものか・・・)


買い物袋片手に、どうせなら一服をしようと喫煙所を探す。

当たりを見渡すと、天井から喫煙所の案内札が下げられているのを発見し、案内に従い歩いていると、エレベーターの右側の喫煙所と描かれた扉が見えた。


喫煙所に入り、胸ポケットに入れていたお気に入りのタバコを手に取り、火をつけ煙を吸い込む。


(ふー・・・。自販機も置いているなんて気が利くな)


併設された自動販売機でコーヒーを購入し、ベンチに座り缶を開ける。


コーヒーをちびちび飲みながら明日からの事を考える。


(ダンジョンの情報がここまで少ないとは思わなかったな・・・・。政府の調査報告書も現状2階層までしか無いし、それ以降は調査員が担うという事だが、それ程までに危険なのか、公務員にやらせる仕事じゃないからなのか・・・)


もらった端末には図鑑アプリが入っていたが、見れる情報は名前だけな上、モンスターの種類も少ない。

出現場所、再出現の有無、行動パターン等一切の攻略情報は無かった。


(ミドリイロゴブリンってネーミングはさすがにひどいんじゃないか?、政府の誰かのセンスなのだろうが)


恐らく詳しい情報は俺たち調査員が報告しなければならないのだろう。


(色々調べるって考えるとダンジョン内で何泊かする必要あるな)


飲み終えたコーヒー缶を捨て、吸い殻を灰皿に捨て、喫煙所から出る。

視線が集まるのが気になる為、足早にエレベーターホールへと向かうと丁度上階へと向かうエレベーターが同じ階に来ていた。


視線を感じつつもエレベーターへと乗り自室のある階層のボタンを押す。


(誰もいなくてよかった・・・)

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