第3話 涙止人のこと

「ただいま」

「おかえり。あれ、その子は?」


 ルイがエミルを連れて、家に帰った。ルイの母・ユイは、ルイが一人で帰って来なかったことを不思議に思った。ルイはちょっと不慣れな感じで横で小さく立つエミルを紹介する。


「えっと、この子はエミル。村長の孫。なんでここに来たかと言うと……」

「涙止人のことを知りたくて!」

「えっ?」


 ルイはエミルが本題から切り出さず、違う角度から来たことに驚いて、エミルの顔を覗き見た。エミルはちょっと意味ありげにルイに目配せをした。


「涙止人のことって、それはまたなんで?」


 ユイは少し警戒しているのか、エミルに真意を尋ねた。そしたらエミルは素直に答えた。


「さっき、ボクが悲しんでるところをルイに助けてもらってね。涙止人ってすごいなぁ、もっと知りたいなぁって思ったの」


 そのエミルの言葉は本心のように思えた。ユイもエミルの目を真っ直ぐ見て、それならと、涙止人のことについて話し始めた。


「そうね。わたしも詳しいことは知らない。ただ、ルイのお父さん。ツナグが、涙止人だったの。だから涙止人のことについてわたしが知ってるのは、彼から聞いたことだけ」


 そう前置きしてユイは話し始めた。子どもに対して、どこからどこまで話せばいいかということを迷って目を閉じながら。


 けれど、ユイが涙止人について伝えられることはそう多くなかった。


 ユイは涙止人ではないから。自身とツナグの子であるルイが涙止人になるかどうかもわかっていなかった。そして、涙止人であったツナグが残してくれた情報は、謎の影から逃げてこの村に来たということ。あともう一つは、形見のようなもの。


 そしてこれらの話は、子であるルイにもまだしていなかった。だからその話を聞いて、ルイの方が先に声をあげた。


「謎の影って何? それでお父さんは死んだの?」


「わからない。ただ、他に説明つかないような亡くなり方だった」


「それじゃあ僕も、いつかそうなるの?」


「そんなのもっとわからない。ただ、これまで何事もなく過ごせたでしょ? だからルイは大丈夫なのかもしれない」


「えぇ……でもこわいなぁ」


 思わぬ沈んだ空気になったところにエミルが割って入る。


「そんな、わからないことを心配してもしょうがないんじゃない? それより、わかるための旅をしようよ!」


 エミルはここで突発的に提案した。


「旅をして、ルイのお父さんの過去を知れば、涙止人のことをもっとわかるかも。そしたら、ルイのこともわかる」


 エミルはもっともらしいことを言っている。ただルイには、それ以上に恐怖感がある。これまでこの村からも、この家からもほとんど出ないようにして過ごしてきたから。


「そうね。じゃあ、エミルくんにお任せしようかな」


 そう言って、ユイは優しく微笑む。


「ええっっ」


 ルイが目を見開いて驚く。


「でも、危ないことがあったら帰っておいで。それと一応、これを持って行って」


 ユイはルイに、ツナグの形見となった剣を手渡す。


「これが役に立つかはわからない。お守りがわりにね」


 鞘を抜くと、切先が、涙の滴の形をした不思議な剣。


「いや。勝手に話が進んでるけど、まだ行くって決めてないからね!」


 ルイが家の外にも響くような声で、心から叫んだ。

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