第2話 笑み

 一本の木を背に、膝を抱え、うつむいて座る少年。


 ルイはその少年の前を、一度は通り過ぎようとしたものの、踏みとどまり、きびすを返し、少年のもとに歩み寄った。


 なんて声をかけるか迷った。おそらく、村長むらおさが亡くなった悲しみを耐えているんだろうということはルイにも推測できる。


 迷ったけれど出てきた言葉は。


「泣いていいんだよ」


 泣く感覚を知らないルイから、少年に伝わったその言葉は、少年のなみだに変わった。


 少年はしばらく嗚咽おえつをあげる。ルイはその様子をしゃがみ、不慣れな手つきで少年の肩に手を乗せ、見守った。


 やがて夕焼けが輝く頃。少年の様子は落ち着き、ふと顔を上げ、泣き腫らした目を細めた。少年の突然の笑顔に少し驚いたルイだったが、その少年から出てきた言葉にも驚いた。


「ねぇ、キミってルイでしょ。涙止人の」

「えっ。知ってるの?」

「おじいちゃんから聞いてたよ。ボク、エミル」


 エミルは村長の孫だった。ルイがエミルに会ったのは数年前で今よりもさらに小さかった頃。ルイがエミルをわからなかったのは仕方ないかもしれないが、なぜかエミルにはルイがわかった。


「ねぇ。涙止人ってすごいんだね。おじいちゃんも言ってたよ。いつか泣けないことが力になるって。今、それを感じたよ」


「泣けないことが……そっか」


 そういえばルイも、村長からそんな話をされたことがある。まだルイが幼い頃、どんな状況でも泣かないことを理由に周りから色々言われたことがあった。でも村長はそんなとき、かばってくれた。


 泣けないのは涙止人だから仕方ない、そんな言葉ではなく、「泣けないからこそできることもあるさ」と言ってくれた。


 その言葉はルイには本当の意味で理解できなくて、それなりの時間を過ごしてきたけど。今はちょっとだけエミルの言葉と、村長が微笑んでそうな青空に、その言葉の意味を感じた。


 そしてエミルは「くふふ」と突然笑い始めて、ルイにこんな提案をした。


「ねぇ、これから一緒に旅をして、みんなのことも助けに行こうよ!」


「えっっ」


 ルイからは、ギョッとした、とても嫌そうな声がした。


「でも。キミまだ子どもだろ。大人がついてないと危ないよ」


 ルイはエミルにそう言い訳したが。


「大人ならいるじゃん」


 エミルはそう言ってルイを指差した。

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