第1話 涙

るい、起きなさい」

「なんでぇ?」

「いや。なんでもなにも、学校でしょ?」

「あ。あっ!?」


 なんのことはない。ただ日曜日と月曜日を勘違いしただけのこと。日曜日にいつも観ているテレビ番組がその日はたまたまなかった。それで曜日感覚を失い、るいは慌てて制服に着替える。


「お母さん、ありがとねー」


 るいは漫画みたいにパンをくわえて出かけたが、そこまで遅刻しているわけじゃない。ただ、学校の図書室に置いてある本を読みたいだけなのだ。別に借りて家で読めば済む話なのだが、それだと逆に義務になって読まなくなりそうだから、朝に図書室で読むのが好きらしい。


 その本の名は「涙止人」。るいしじん、と読む。泣けない青年が主人公の本で、何やら自分にも通ずるものを感じたとか。


 たまたまなみだについて調べていようとしたところ、な行の棚で見つけた。正確には、らりるのるから始まるタイトルだけど。


 るいは図書室に着き、いつものように、その本を探す。


「お。あった、あった」


 その古びた本はまだ誰にも借りられた形跡がなく、本棚からなくなっているところを見た覚えがないので、正直人気がないらしい。それでるいが借りる必要性を覚えないのもあるかも。


 るいはこれまで人生で、あまり泣いた記憶がない。産まれた頃はそりゃ泣いたかもしれないけど、そんな自分に対して少し疑問を持って生きていた。そして出会ったこの本の主人公も、泣けない人物だったから読み進めているというわけ。


 その主人公が最後にはどうなるのか。今のるいはまだ知らない。


 そうそう。そのお話の主人公の名も「ルイ」である。


 ルイは、父親代わりだった村長むらおさを亡くすところから物語は始まる。そして花を手向け、広場を後にすると、ある少年に出会う。

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