涙止人-るいしじん-

浅倉 茉白

プロローグ

 雲一つない青空の下。砂の広場に置かれた木棺が一つ。


 人々が目に涙を浮かべながら、木棺もっかんの中に花を手向けていく。


 ただ、その内の一人の青年は、目に涙を浮かべていない。


 その青年は、その亡くなった人物と、大した関わりがなかったのか? 特に悲しくないのか?


 そうじゃない。その青年は、産まれた頃には父親がおらず、その亡くなった人物を父のように慕っていた。


 亡くなる前には、しばらく会う機会を失っていたが、今も青年は花を手向けながら、脳裏にはその人との思い出が蘇ってきている。


 ただ泣けないだけ。泣くことができないだけ。


 この物語は、そんな涙止人るいしじんのお話。

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