第21話
『……苺』
私が、まとまった考えをどうやって伝えようか考えていると、電話口の杏が私の名前をさっきまでの低い声とは一変し、悲しそうな声で呼んだ。
『どうしたの?』
ここで、いま、自分の意見を杏にぶつけてしまったらきっと、彼女を苦しめてしまう。
だから、ぐっと堪えて平穏を装って杏の話に相打ちを打つ。
本音は、「瑞樹君の事、まだ好きなんだよね?」って訊きたい。
けれど、これ以上、自分で引きずってないと言い切る彼女を苦しめたくない。
『藍住くんって、苺の事になると周りが見えなくなるからなぁ。まぁ、それぐらい、苺の事が好きなんだもんね? 六年間もずっと。すごいよね。そこまで、一途に愛して貰える苺は、やっぱり幸せ者だよ。本当……あいつとは大違い』
『……杏は、後悔してないの?』
口に出すはずじゃなかったのに、自然と口から出ていた。
『えっ!』
私の口から急に出てきた言葉に、杏は驚きの声を上げる。
『あぁ!? 杏、これはなんて言うか』
どうにか誤魔化そうと、シドロモドロする私に、優しい声で話し掛けてきた。
『苺には、隠せないね。正直に言うと苺の言った通り、後悔はしてるよ。だって、理由も言わずに突然別れて欲しいって言われたんだから。けど、瑞樹にもなにか訳があるんだろうし、しょうがないよ』
『杏は、本当にそれでいいの?』
『まぁ、瑞樹に手作りチョコは渡したかったけど……しょうがないよ。だから、当分いいかな? 恋愛は。あぁ! でも、苺の事は、応援するから』
太陽みたいに眩しくて、夜空に光る星屑にキラキラ輝く、幸せオーラ全開だったあの頃の姿はなかった。
☆ ☆ ☆
二人の関係に憧れて、自分達もあんな風になりたい。
そう思っていた二人の関係がこのまま終わって欲しくない。
二人は私の憧れで、杏は私の大切な友人だもん。
だから、これからする事は、私の我儘。
杏からすれば、もしかたら迷惑かも知らない。
けれど、もし時間が戻るなら。
もし、まだ間に合うなら。
まだ、修復が可能なら。
だって、杏は心の中では、まだ彼を愛してしてる。
瑞樹君が、どんな想いで別れを切り出したかは私には分からない。
けれど、微かでも希望があるなら。
例え、その希望がたった一%でも……
私は、その希望に掛けてみたい。
そして、もう一度瑞樹君と付き合って欲しい。
☆ ☆ ☆
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