クッキー
第16話
※これから、別の話になります。
宇田川苺とって毎年二月十四日は、一年で一番幸せな日。
だって、大好きな彼、藍住紘くんに、バレンタインのおいしいチョコを渡せる。
ただ、私は、彼に手作りのチョコを渡すことができない。
そう、私は料理が壊滅的に苦手。
得にお菓子作りが最も苦手で、彼と付き合って最初のバレンタインデーに一回だけ手作りチョコを渡そうと、友人で料理が得意な白川杏に頼み込んで一緒にチョコを作ろうとしたんだけど……
『苺、ごめん。私、お菓子だけはダメなんだ。ごめんね。お菓子以外だったらよかったんだけど』
と頼みの綱だった白川杏に断れてしまった。
だから、自分一人で作った最初で最後の手作りチョコは、最悪だった。
けれど、彼は、お世辞でも美味しくない私の手作りチョコを残せず食べてくれた。
『苺。このチョコとても美味しい』
今、思えば彼は、きっと私に気を使ってくれたんだと思う。
じゃあ、なかったら自分でも美味しくないチョコを全部、食べてくれるわけない。
だけど、あの時は、涙が出るぐらい嬉しかった。
それから、一ヵ月後の三月十四日ホワイトデ。
紘くんが、私に箱に入った手作りのホワイトクッキーをくれた。
味は、私が一ヵ月前に渡したチョコより、美味しくて、形も綺麗。
なんで、私手作りチョコなんて、紘くんに渡したんだろう。もしも一ヵ月前に戻るならあげる前に戻りたい。
そう、彼にばれない様考えていたら、紘くんが箱を見てと突然私に告げてきた。
私は、彼に考えが読まれないように箱の側面を見た。
その文字を読んで私は、思わず彼の顔を見つめた。
『紘くん? これは?』
※苺、手作りなのは、クッキーじゃあなくて箱の方なんだ。ホワイトクッキーは、店で買った有名店のクッキー。
『……俺、簡単な物なら自分で手作りしてるんだ。例えば、いま、苺が持ってる箱も型からデザインした俺オリジナル。けど、どんなに頑張っても苺に貰ったチョコみたいにホワイトクッキーが美味しくならなくって……既製品にしてしまいました。苺ごめん。来年は頑張って美味しいクッキーつくるから』
自分に対して、頭を下げてくる紘くんに私は、彼が作った箱を持ったまま近づく。
目に大量の涙。
『手作りクッキーなんていらないよ。だって、私も料理苦手だもん。だけど、紘くんは、私が作ったチョコを美味しいって言ってくれた。それだけで十分』
『……苺、それだけで本当にいいのか?』
紘くんは、何も望まない私に、そう尋ねてきた。
当たり前だ。
だって、来年は頑張ってお返しを作ると言った紘くんに、私が何も要らないと言ってしまったんだから。
『うん。でも、紘くん一つだけお願いしてもいい?』
☆ ☆ ☆
「苺。いま幸せでしょ?」
「へぇ?」
「隠そうとしても無駄だよ。顔に出てるよ。幸せオーラが。この幸せ者が」
紘くんと付き合い初めて四年目。あと一週間で四回目のバレンタインデーを迎えようとしていた時、友人の白川杏が私の顔をニヤニヤしながら覗き込んできた。
友人である彼女にも、別のクラスに古村瑞樹という恋人がいる。
彼女の場合は、彼である瑞樹君が、入学試験で偶然自分に話し掛けてきた杏に彼が一目惚れして、そこで二人である約束して、無事に約束が叶って、同じクラスになった瑞樹君から半年後告白され、恋人同士になった。
その話を、高校二年の春に初めて同じクラスになったさいに聞かされ、それをきっかけに彼女と恋人である瑞樹君と知り合いになった。
けれど、二年次から進学コースと就職コースでクラス分けがされ、瑞樹君も私たちと同じ進学コースを選択していたけど、瑞樹君は一年次の成績が上位に入る程の優等生で二年次からは、特進コースのクラスになり、同じ進学コースでも違うクラスになってしまった。
だからなのか瑞樹君は、自分が近くにいられない時の杏の情報を知りたいのか、恋人である杏が友人として紹介した自分に、杏にばれないように友達になってくださいと声を掛けてきた。
瑞樹君は、ばれていないと思ってるけど、杏には最初からばれており、瑞樹君が自分に声を掛けるタイミングを杏が、瑞樹君の行動パターン予定日をある程度導き出し、私に対処法と自分が出るタイミングまでをメールで事前に教えてくれる。
それが、かなりの確率で当たる。
なので、私は、予定日にその通りに動くだけ。
そんな瑞樹君を毎回、杏が鬼の形相で怒るのが私たち三人の日課だった。
私は、二人には悪いと思ったけど毎回、それを見るのが楽しみだった。
二人には絶対言えないけど……誰がどう見たって、夫婦漫才なんだもん。杏がツッコミで瑞樹君がボケ。
だから、私の事を幸せ者ってニヤニヤしながら言ってくるあんたの方が幸せ者だよ。
本人は、全く気付いてないんだから……ムカつく。
瑞樹君の事を深く理解してないとそこまでわからないよ。
「私より、杏のほうが幸せでしょ。瑞樹君にあんなに好かれて」
「……苺……なに……言うの? そんなわけないじゃん」
私をニヤニヤしながら見つめていた杏は、私の反撃に最初の言葉が詰まる。
そして、頬が少し赤くなっている。
(どうしよう可愛い)
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