ビターチョコ

第4話

『ごめん別れて欲しい』

『…わかった』

「瑞樹! 瑞樹ってば!」

「……あぁ! ごめん。もう一回いい?」

 友人の金城俊は、ため息をつきながら、瑞樹の前にある本を指差す。

 二人が居るのは、瑞樹が大学に進学する為に、引っ越してきたアパート。

「今日は、瑞樹、お前が料理をご馳走してくれるって言うから、楽しみに来たのに、結局、俺も手伝うことになってるし。それに、なんか知らないけど、お前、いきなり黙り込むし」

 まな板の上で、玉ねぎをみじん切りにしながら、金城が瑞樹に「大丈夫?」と声を掛ける。

「ごめんごめん。ちょっと考え事してて。さぁ? 続きやるか。えっと……次は、みじん切りにした玉ねぎを」

 二人がいま、作っているのは、ハンバーグとビーフシチュー。

 ビーフシチューの方は、あとは、煮込むだけ。

「もしかして、明日の事でも考えてたのか?」

「ちげえし!」

 瑞樹は、否定するが、そんなことなどお構いなしに、

「いいよなぁ? 杏ちゃんだっけ? かわいいよなぁ? 俺も、彼女欲しい。バレンタインデーに、チョコくれる彼女が?」

 俊が、羨ましそうに、瑞樹の肩に包丁を持っていないを右手を置こうとした瞬間、瑞樹は、その手を力強くどかした。

「杏となら1年前に別れたけど」

「はぁ?」

 瑞樹からの突然の告白に、包丁を置き、彼の方を見る。

「何で! 高校時代から、杏ちゃんと? 付き合ってるんだろ!」

「あぁ! でも、自分の時間が急に、欲しくなって、彼女の誕生でもある1年前のバレンタインデーに別れた」

 過去の話でもするように、俊にそう告げるとフライパンで玉ねぎを炒め始めた。

「瑞樹。お前まさかだと思うけど、そんな理由で彼女と別れたのか?」

「あぁ。けど、杏には言ってない。杏は、ただ、一方的に別れて欲しいって言った。杏も納得してくれた」

 玉ねぎを炒めながら答える。

 但し、こっちは振り向かない。

 パァッン! パァッン!

 瑞樹の手から木べらが床に落ちる。

「何するんだよ」

「瑞樹の大バカ野郎!」

「俊?」

 俊の言葉の意味がわからず、赤く腫れた頬を左手で抑える。

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