第39話

古橋法律事務所 19時30分

「森さん! 今回は、本当にありがとうございました」

「いやぁ? 自分は自分の仕事をしたまでですよ? それに、頑張ったのは私じゃあなくて堀川さんよ!」

 弁護士の森咲良は、古橋法律事務所で働く弁護士だ。

 古橋法律事務所には、森を含め、5人の弁護士が所属している。

 そして、この古橋法律事務のトップが名前にもなっている古橋総一郎だ。

「いやぁ? 森さん! 貴女のお陰です」

 テーブル越しに堀川に両腕を捕まる。

「堀川さん」

「わたし前向きになれたんです。貴女や古橋法律事務に出会えたお陰で、だから、貴女はわたしの正義の味方なんです」

「……堀川さん。それは言いすぎですよ!」

 私は、正義の味方どころかましてや神様ではない。

「いいえ! 貴女は私の神です」

 堀川の言葉に、森は、少し体を後ろにそらす。

 これ以上は、体が持たない。

 なので、題を変えるためにも、例の物をバックから取り出し、テーブルの上に置く。

「あぁそうだ! 堀川さん! コレ」

「これは?」

 案の定、森突然渡された手紙に、彼女のことを神扱いしていた堀川は、首を傾げる。

「貴女の元旦那、石河圭吾様からです」

「……あの人から?」

 元旦那という言葉に、堀川は手紙を見ながら固まる。

「……はい。貴女に渡して欲しいと離婚裁判のあと、石河様からほぼ無理やり渡されました。なので手紙をどうするかは、堀川さん! 貴女に任せていたします」

 森の言葉に、堀川は言葉を失う。

 確かに、旦那と自分のことを裏切った親友のことは憎い。

 できることなら、もう二度と私の人生に関わって欲しくない。

 けど……

「……堀川さん。すみませんが、私、まだ仕事が残っているので」

 その場から立ち上がり、黒いカバンを持って堀川に向かって申し訳なそうに頭を下げる。

「そうなんですか! じゃあ……」

 森の言葉に、受け取ったばかりの手紙をバックの中に入れ、その場に立ち上がり、彼女に向かって頭を下げる。

「森さん! 今回は、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、堀川さんの助けになれたらよかったです」

 互いに頭を下げると互いの健闘をたたえて握手を交わした。

 ☆

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