第32話

「オーダーお願いお願いします」

『あぁ! 丁度よかった七橋先輩! 先輩助けて下さい!』

 女性二人組(陽菜と里穂)のオーダーをキッチン伝えにきた來未に、キッチンで一人で料理を作っていた藤井は、料理の手をやめて、來未に救いの手を求めてきた。

「どうしたの?」

 藤井の余りにも切羽詰まった声に、オーダーを伝えに来た來未は驚きながら彼の名前を呼ぶ。

「先輩達が、二人そろって休憩(たばこ休憩)に行ってしまってキッチンが全く回らないんです!」

「えっ?」

 藤井からのSOSに、來未は思わず叫んだ。

 しかし、すぐさま藤井に向かって、

「……藤井君。ちょっと内線借りてもいいかな?」

「えっ? あぁどうぞ!」

 キッチンのヘルプに入って貰ったかった藤井は、來未からの突然の電話貸して発言に驚きながらも、電話を貸すことに同意する

「ありがとう。じゃあ、ちょっと電話借りるねぇ?」

 そう藤井に告げると、來未は、キッチンに置いてある緊急用の内線で、どこかに電話を掛け始めた。

※本来、電話は、キッチンとホールの間のカウンターの所にある。しかし、キッチンには、もしもの時用に、緊急の電話が壁に立て掛けてある。

「あぁ店長! お疲れ様です」

 電話部分は、省略。

「……あぁはい! じゃああとはよろしくお願いします」 

 電話を切る來未。

 そして、藤井に向かって、笑顔でこうはなし掛けた。

「藤井君。今日は、ホールが忙しいからこっちの方手伝ってくれないかな?」

「えっ? でも……自分がいなくなったらキッチンが……」

 來未からの突然の要望に、動揺する藤井。

 それはそうはずだ。

 いま、自分がキッチンからいなくなったら、誰も料理を作る人がいなくなる。

 それどころか、rose自体が回らなくる。

「あぁ! それなら心配大丈夫だよ! 今、店長に承諾貰ったから。それに、いまからは、兼城君と矢先君がここから休憩なしで働いていくるから」

「……えっ!」

 來未の言葉に、藤井は言葉を失う。

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