第28話

同時刻。ホール

「おはようございます」

 店長から呼び止められた來未を一人残して、先にホールにやってきた宇野は、先に一人で掃除をしていた男性、柚原凜(ゆずはらりん)に、声を掛ける。

 ※柚原凜の特徴。

 ・年齢19歳 専門学生(デザイン)

 ・身長168センチ 体重50キロ

 ・髪型 短髪、 

 ・髪色 アッシュブラック

 ・眼鏡を掛けているが実は視力は、とてもよく眼鏡を掛ける必要はないのだか、柚原自身が希望して伊達眼鏡を掛けている。

「おはようございます宇野先輩」

 真理華に声を掛けられた柚原は、掃除の手をやめて、真理華の方を振り向く。

「おはよう柚原くん。あれ? 今日は学校休み? それとも……」

 柚原は、デザインの学校に通う学生だ。

 なので彼の「rose」でのアルバイトは、学校が終わったあとの平日の数時間と土日(但し、課題が忙しい時やテスト期間は流石に休む)

 数年前まで大学生だった真理華も、アルバイトとして働いていた時は、今の柚原の同じような勤務体制で働いていた。

「あぁはい。一昨日から冬休みです」

「あぁ! 冬休みか? いいなぁ? 懐かしいなぁ? わたしにもあったなぁ? そんな時代。」

 真理華にとってはまだ数年前(大学卒業して)のことだか、やっぱり学生の頃の長期休暇は羨ましい。

「そんな時代って……先輩、僕とあんまり年変わりませんよねぇ?」

 柚原は、真理華の言葉に思わず突っ込む。

 確か、宇野真理華は、23歳だったはず、柚原は、頭の中で彼女の年齢をどうにか思い出す

「確かに、私と柚原君と年齢は余り変わらないよ。けど、10代と20代じゃあ年齢もそうだけど、社会人になると自分の置かれている立場に責任を持たないといけないしねぇ? あぁ! 話しがかなりずれちゃったねぇ? 今日は、柚原君だけ?」

 自分らしくないことを言ってしまったので、強引に話題を変える。

「午前中は、僕だけですけど、午後から木野崎がくるので、今日は2人です。女子の方は、今日、宇野先輩だけですか?」

 柚原の方もすぐさま、真理華の話に乗っかる。

 それどころか、彼の方も真理華に同じ質問を返した。

「うんん。七橋先輩も。今は、店長に呼ばれているけど?」

「そうなんですか? あれ?」

「どうかした?」

「今日って、七橋先輩ってホールシフトに入ってましたけ?」

 roseのシフトは、全員の希望をある程度叶える為に、2週間ごとに決めている。

 なので、2週間前に決めた今日(12月24日)のホールのシフトに來未の名前は入ってなかったはず。

 そう柚原は認識している

「あぁ! 神林先輩と変わったんだよ! 本当は、明日まで、七橋先輩連休だったんだけど、神林先輩が、昨日の夜、急に体調を崩したみたいで、急きょ連休だった、七橋先輩と休みを交換したんだっけ」

「そうだったんですか? けど体調を崩した神林先輩は災難だけど、折角の連休が2日かとも仕事になってしまった七橋先輩はもっと災難ですね?」

皆には申し訳ないと思っているが、自分は中々バイトに出ることができない。

 なので、七橋先輩の激務を心配する

「うん。けど、先輩なら大丈夫じゃないかな? それに、むしろ好都合じゃないかな?」

「好都合? どういうことですか?」

「えっ! もしかして柚原君! なんでか訊きたい?」

 誰かに話したくってうずうずしていた真理華は、柚原の言葉に、顔面をぱぁーと明るくされ、彼の両肩を思いっきり掴んでいた。

 それも強い力で。

 柚原は、真理華に恋人がいることは知っている。

 ただ、今まで恋愛経験(=年齢)がないので、女性にいきなりこんなことをされた場合、どう対処すればいいのか対処方法がわからない。

 けど、目の前にいるのは、職場の先輩で、しかも交際している恋人さんがいるので……

「うう宇野! かか顔が近いですよ! あと痛いです!」

 どうにか、真理華の両腕を掴んで肩から引き離した。

「ごめん! ごめん! つい興奮して、柚原君大丈夫だった?」

「はい! 自分なら大丈夫です。けど、宇野先輩がそこまで興奮するって、余程のことなんですね?」

「そうなの? もう、七橋先輩ったらじ……先輩いつからそこに?」

 ホールとキッチンを間を結ぶカウンターの隙間から、來未が申し訳なそうにこっちを見ていた。

「……えっと? 真理華ちゃんが柚原君に栞の話を始めた頃から?」

「そそそんなに前から!」

 來未の言葉に、柚原に彼女(來未)のことを放そうとしていた真理華は、その場にしゃがみ込む。

(まさか、あの話も聞かれた! どうしよう怒られる)

 來未が、カウンターから二人がいるホールの方にやってくる。

 そして、真理華のすぐ隣までくると、しゃがみ込んでいる真理華に声を掛ける。

「真理華ちゃんごめんねぇ? 私がもう少し早く、真理華ちゃんに声を掛ければよかったんだけど? なんか柚原君と話しが盛り上がっていたから」

「……七橋先輩は何も悪くありません。悪いのは、私の方なので……先輩、私ちょっと外の掃き掃除してきます」

 真理華は、立ち上げると、そのまま外に出て行ってしまった。

「……あぁ! ちょっと! 真理華ちゃん!

 來未は、いったい何が起こったのか状況を理解することができない。

 なにか、自分は、真理華を怒らせることを言ってしまったのだろうか?

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