第26話

事務所兼休憩室。8時15分。

「あぁぁはい! 解りました。では、よろしくお願いします」

 取引先である卸売業者との電話を終え、ため息をついていた樹怜は、ドアの所に立つ、來未と真理華と目が合う。

「あぁ……店長おはようございます」

「おはようございます」

 店長の視線に、來未と真理華は、それぞれ気まずそうに挨拶をすると、店長の机のすぐ横にあるタイムキーパーの所に行き、タイムカードを切る。

 そして、出社時間を紙に記入して二人で事務所でホールに向かおうとしたら……

「あぁそうだ! 七橋? ちょっといいか?」

 樹が來未に声を掛けてきた。

「はい」

 真理華と一緒にホールに向かおうとしていた來未は、樹に声にうしろを振りかえり、

「じゃあ先輩! 私、先に行っていますから」

 と真理華は、來未に声を掛けて、事務所兼休憩室から出て行った。

「あの……」

 真理華がいなくなり、店長と二人っきりなった來未は、パソコンの画面を見詰めたまま一向に自分の方を見ない店長にどうしたものかと頭を抱える。

 名前を呼ぶだけ呼んで、用事がないなら、私ここにいる必要あるのかな?

 來未は、そう心の中で葛藤しながらも、相手が相手なので呼ばれるまで自分はここにいるしかない。

「……七橋」

「あぁはい すみません!」

 突然の呼びかけに、別のことを考えていた來未は思わず声が裏返る。 

「あぁすまない! そこまで驚かせるつもりはなかったんだ」

「あぁいえ。こちらこそすみません。あの? 店長? なんの用でしょうか?」

「あぁそうだな? 別に大した用事ではないだか、最近どうだ?」

「えっ? あぁ…… まぁ? なんとかやっていますよ。ただ新生活には、まだ慣れませんけど」

「……そっか? 悪かったなぁ? 仕事前にこんなプライベートのことでいちいち呼び止めて」

「あぁいえ? では、私はこれで」

 頭を下げて、事務所から出て行こうとしたら……

「七橋!」

 樹が來未の右腕を掴んでいた。

「……店長?」

 いつもの陽気な樹と違い、真剣で大人前の表情に、來未は目を離すことができない。

「七橋……お前は、その明日の……いやぁ? 今日も一日よろしく頼む」

「あぁ……はい。今日と明日は忙しいので、店長の期待にそえる様に頑張ります。じゃあ店長、失礼します」 

 來未は、今度こそ、頭を下げて事務所兼休憩室を出て行った。

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