第25話

「先輩! そうじゃあなくて!」

「ままま真理華ちゃん?」

 顔が近いよ!

 それどころかなんか怒ってる?

「先輩はもう恋をしないつもりですか?」

 あぁそっち? 

 來未は、真理華の言葉をようやく理解した。

 そして、理解してうえで真理華に向かって……

「ん? 恋は当分いいかな? 続けざまに失敗したくないし……なんなら、海外旅行にも行ってみたいし、その為に今は恋よりお金を貯めないと」

 そう! 今は、恋より仕事。

 真理華ちゃんには悪いけど。 

 今の私は、誰かに恋をする暇もないし、するつもりもない。

 真理華がじっと自分の顔を見詰めてくる。

「七橋先輩は、私の頼れる先輩です。困っている時は、なんでも相談に乗ってくれるし、本当頼りになる先輩です。だけど……」

 そこで、一旦言葉を切り上げると、真理華は來未の元を離れ、ドアの方まで歩いていくとドアに背中を預けた形で後ろを振り返る。

「先輩は、毎日、私たち後輩のことばっかり心配して、自分のことは全く大切にしませんよね?」

「そそそそんなことないよ! 自分のことも大切にしているよ! なんなら、毎日身体のメンテナンスもやってるよ!」

 確かに、真理華に言う通り自分のことを後回しで、他人の世話をしてしまう。

 けど、自分の身体のメンテナンスは、毎日寝る前にしっかりやっている。

「そうですね? 確かに先輩はいつも綺麗で、向日葵みたいな人です。けど、心のメンテナンスはどうですか? 先輩、いま? 笑えてますか? 先輩? 私は、先輩の笑顔が好きなんです! じゃあ私、先に行きますね?」

「……あぁうん」

 來未も数秒も無言になりながらも返事を返す。

 しかし、廊下に出ようとドアノブを掴んでいた真理華が何かを思い出したのか……

「あぁそうだ! 先輩、最終日のダンスパーティー、誰と踊るかもう決めましたか? パートナー受付今日までですよ?」

「えっ? ダンスパーティー? パートナー受付? なにそれ?」

 えっ? なにそれ? いま初めて聞いたんだけど? 

 來未は、真理華の言葉に、首を傾げる。

 一方の真理華も、そんな來未の様子に、首を傾げる。

「……えっと? 本当になにも知らないんですか?」

「うん。いま初めて聞いた。真理華ちゃん? そのダンスパーティー、roseのスタッフは絶対参加しないといけないの?」

「そそそそれは……」

 來未の質問に口ごもる真理華。

 確かに、イベントの最終日にダンスパーティーが執り行われる。

 けれど、主役はあくまでお客様であり、スタッフは裏方。

 なので、スタッフが表立てパーティーに参加する事はない。勿論、お客様から指名された場合は別だか。

「だったら、真理華ちゃん! 私は……」

 参加はなしと真理華に告げようとした瞬間……

「先輩! 先輩は……樹店長のことが好きなんですよね?」

「なななななんの話?」

 突然樹のことを言われ、思わず言葉がおかしくなる。

 けれど、真理華はそんな來未のことを無視してさらに話を続ける。 

「……先輩? もう、自分の心に嘘をつかないで下さい! 先輩? 3度目の恋がなんですか? わたしなんて、藍里に6回も振られたんですよ! それでも諦めれらなくて7回目で告白でようやく付き合えて、それに、なんなら正式なプロポーズは藍里からですよ? だから、先輩も幸せになっていいんですよ?」

「……そうだね? 真理華ちゃんの言う通りだね?」

「じゃあ? やっぱり樹店長のことが好きなんですね?」

 真理華の期待に満ちた目。

「……うん。それはどうかな? 確かに、店長のことは、尊敬はしてるし、なんなら、ここで働く男性スタッフの中では一番カッコイイと思う」

「じゃあ……」

 告白すればいいじゃあなですか? と思わず口に出しそうになった。

「けど、いっときの感情だけで、まだ好きかもわからない相手に告白するのは、自分もそうだし、相手にも悪いと思う。それに……」

 來未は、言葉を切り上げると、自分の胸を左手で押さえながら、真理華に向かって、

「どうも、今は、わたしは、まだ元彼のことが忘れられないみたいで。ごめんね?」

 頭を下げる。

「せんっ先輩! 頭を上げて下さい。私こそ、生意気なことすみませんでした」

「真理華ちゃんは何も悪くないよ! わたしが、あの人のことを忘れらないだけ。私が、踏み出す勇気がないだけだよ。真理華ちゃん。私みたいになっちゃだめだよ! 私は、失敗例だから!」

「そっそそそそそそん……」

 そんな事ありませんと真理華が否定しようとしたら、來未が真理華の右手を取り、

「真理華、そろそろ行こうか?」 

「……あぁはい!」

 真理華も來未の右手を握り返し、二人で更衣室をあとにした。

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