第23話

匠が出て行った扉を來未はしばらく見つめていた。

 そして、匠の姿が完全に見えなくなったことを確認すると、ワイングラスに入っている白いワインを一口し、まだ、グラスに中身が残っているが、バックから財布を取り出し、カウンターにいるマスターに向かって……

「すみません。会計お願いします」

 と白ワインの会計をお願いした。

 今は、そんな気分ではない。むしろ、早く今日という日を終わらせたかった。

 なので、1秒でも早く、この店から出て行きたかった。

 けど、そんな來未の前にマスターが、一杯のワインを差し出してきた。

※中身のないワインは1脚。

「……ジャスミン&ホット白ワインになります」

※<参考資料 アサヒ カクテルガイド >

〇すがすがしく華やかなジャスミン茶の香りと白ワインが絶妙にマッチしたスッキリしたフルーティな味わい。

〇アルコール度数 12.50

〇色 黄色

〇ベース ワイン

〇味のタイプ さっぱり

〇ティストマップ 薄い 

「えっ? 私、会計……」

 会計をお願いしたのに、飲み物が出てきたので來未は驚く。

「ジャスミン茶には、リラックス効果があるんです。それに…ここには、私とお客様の二人しかいません」

 マスターの言葉に、來未は、差し出されたカクテルを「ジャスミン&ホット白ワイン」を口にする。

 飲んだ瞬間、お口の中に、ジャスミンの華やかな香りと白ワインのフルーティが味わいが口いっぱいにひろがる。

「……美味しい。マスター」

「……はい」

「……お互い好きで付き合ったはずなのに、実際は、自分しか相手のことを愛していなかったとしたら、彼はさ……」

 話の途中なのに、涙がどんどん流れてくる。

 もう総一郎さんのことでは、泣かないって決めたのに、

「ごめんなさい。私ったら、すぐに止めますから」

 必死に止めようと、來未は、両手で涙を抑え込もうとするが、それを上回る勢いで涙が溢れてくる。

 それでも、來未が涙を止めようとしたら……

「……いまの貴女はとても綺麗です。だから、今日ぐらい涙が枯れるまで泣いてもいいと思いますよ?」

「……はい」

 マスターの言葉に、涙を必死に止めようとしていた來未は、笑顔で返事を返す。

 グラスの飲み物を一気に飲み干した。

 そして、マスターに向かって……

「マスターありがとうございました。お会計お願いします」

 この先、どうなるかわからない。

 けど、私もう、うしろは振り返らない。

 私は、未来(あした)を生きていく。

「はい! かしこまりました」 

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