第22話

「……そんなことが。俺、てっきり二人は結婚するかと思ってたのに?」

 まさか、本当にと言わんばかりの表情で、來未の顔を見る。

「私も、そのつもりだったんですけど……人生なにが起こるかわかりませんねぇ?」

 笑いながら匠に言葉に相打ちを撃つ。

「來未ちゃん。僕の前でそんな作り笑顔しなくても大丈夫だよ!」

「あぁはぁ……ありがとうございます。でも、こうやって作り笑顔でもしていないと立っていられないです! それに、恥ずかしい話、そのせいでスタッフの皆に心配をかけてしまったんです。みんな、私が、元店の常連客だった古橋総一郎さんと婚約していること、なんなら彼と同棲している事までも知っていましたから、みんな自分のことのように驚いていました。だから、みんなに心配をかけない様に、そして、総一郎さんを忘れる為に、どんなに辛くても私は、作り笑顔をしようと決めたんです」

 これは、真っ赤な嘘。

 作り笑いなんていま初めてした。

 それに……今日の今日で総一郎さんのことを忘れることなんかできない。

 それだけ、わたしは、彼のことを愛していた。

 だけど、もうそれは、過去の話。

 私はもう誰も……いやぁ?

「……來未ちゃん?」

「そそそそう言えば匠さんは栞とはまだ結婚しないですか?」

 自分の話題から、強引に匠と栞の話題にすり替える。

「けけけけ結婚?」

 急に、自分に話題になり動揺する。

「えっ? そんなに驚く事ですか?」

 匠の予想以上の反応に來未は驚く。

 てっきり、匠は、栞との結婚をもう考えているとばっかり思っていたので。

「驚くよ! 確かに、栞のことは好きだけど、まだ結婚とかは……」

「えっ? もしかして栞との結婚考えてないんですか?」

「そっそそそれは……」

 匠のなにか歯切れの悪い返事に、來未は、違和感を覚え、ある一つの可能性にたどり着く。

「あぁ………匠さんって、意外とロマンチックですね?」

「えっ? 來未ちゃん!」

 突然のロマンチック発言に、匠は意味が解らず彼女の名前を叫ぶ。

「あぁでも、栞は、わたしと違って、色んな意味で勘のいい所があるから、プロポーズをするなら、変に拘らないでストレートに伝えた方がいいですよ!」

「くくくく來未ちゃん! なんで僕が栞にプロポーズする事になってるの?」

「えっ? しないんですか? 栞、匠さんからのプロポーズ待ってますよ? あぁ! 私のことなら全然気にしなくて大丈夫ですよ! ほら? 栞が家で待ってますよ!」

 早く家に帰るよう、匠を急かす。

 そんな來未に、最初こそは抵抗していたが、数分経つ頃には、諦めたのか……席を立つと、財布から千円を取り出し、カウンターに置いた。

「マスターごちそうさまでした。じゃあ、來未ちゃんまた電話するから」

「はい! 匠さん。プロポーズ頑張って下さい」

「あぁぁははぁ、頑張るよ!」

 栞の言葉に、苦笑いしながら店から出て行った。

 ☆

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