第21話
「いらっしゃいませ。コートはこちらでお預かりします」
店に入ってきた來未に、マスター(男性)が声を掛けてきた。
「ありがとうございます」
來未は、マスターに着てきた黒いコートに預け、改まてマスターに会釈し、目的の人物がいる席まで歩き始めた。
「……匠さんお待たせしました」
來未の呼びかけに、独り白ワインを飲んでいた男性、遠藤匠は、ゆっくり、ワイングラスをテーブルの上に置くと、來未に隣の椅子に座るよう手招きし、マスターに、自分と同じ白いワインを注文した。
「匠さん、あ……」
匠の隣の席に座った來未は、改めて彼に声を掛けようとしたら……
「來未ちゃん! 勝手に白いワイン頼んじゃったけど? 大丈夫だった?」
「……あぁはい。大丈夫です」
自分の言葉を遮るように言葉を重ねてきた匠に動揺しながらも、大丈夫ですと返事を返す。
普段來未は、主にビールを好んで飲む。
だからか、ワインやシャンパンなどの他のお酒をあまり好んで飲まない。
それでも、飲めないわけではない。ただ、飲む機会が少ないだけ。
「そう? よかった。この店、僕の行きつけの店なんだ! だから、來未ちゃんも気に入ってくれるかなと思って?」
「……そうだったんですか? あの、た……」
來未は、匠に自分をここに呼び出した理由を今度こそ質問しようしたまさにその瞬間、マスターが、來未の前に、匠が注文した白いワインが入ったワイングラスを置く。
「あぁ! ありがとうございます」
「いえ」
マスターは、來未に短く一言告げると、すぐさまカウンターに戻っていた。
「あの? 匠さん? どう……」
今度こそ匠に、なんで電話ではなく、こんな所に呼び出したのか訊こうとしたら……
「栞が、來未ちゃんを泣かせたんだよねぇ? だから、今日、うちに泊まらなかったんだよね?」
「えっ?」
自分が想っていたのと全く違う言葉と匠からの謝罪に、來未は「えっ?」と声を返してしまった。
「えっ? 違うの? 俺、てっきり、栞が來未ちゃんに酷いこと言ったから家に泊まりこなかったのか思ったんだけど? 違うの?」
「はい、違います。今日、わたしが、そちらに泊まるのをやめたのは、決して栞になにか言われたわけじゃあなくて、誰にも邪魔されない場所で独りで泣きたかったからです。すみません。私の方から、自分の事情と謝罪の連絡をするべきでしたね?」
これは真っ赤な嘘。もしかしたら、もう二度と栞との友情は戻れないかもしれない。
けど、それを栞の恋人である匠さんに言う必要はない。
そう……遠藤匠さんは、神林栞の恋人で、私にとっては、親友の彼氏でしかない。
それも、元親友の。
來未は、匠に申し訳なさそうに頭を下げる。
そして、匠に、今日、自分の身に起きたこと出来事(但し、所々、内容を脚色しながら)全てを打ち明けた。
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