第17話
20時40分 華水駅。
「rose」を出てきた來未は、今日の宿泊を確保する為に、華水駅までやってきた。
けど、今は、宿泊先を探す気分にはどうしてもなれない。
その理由は、学生の頃からの親友だった神林栞と喧嘩したからだ。
それもただの喧嘩ではなく、栞の自分に対する本音を知ってしまったからだ。
『あんたに私のなにが解るの! いつも、かわいいくて美人なあんたと比べられて、店に来るお客さんからも、私じゃあなくて、來未の方がよかったって、オーダーを訊きに行く度に、毎回毎回言われて、それでも我慢してオーダーを訊いて注文品を持って行ってもやっぱり來未が言われる私の気持ち、あんたに解る? 解られないよねぇ? プライベートのことでもみんなに心配して貰える可愛くて美人な天然ちゃんの來未には?』
「栞……」
私たち、親友じゃあなかったの?
「……お姉さん。落としましたよ?」
突然うしろから「お姉さん。落としましたよ?」声に、來未は、うしろを振りかえる。
両手にキャリーケースを持っている為、涙をふくことができない。
「すみません。あり……」
自分でも気づかない内に落とした落とし物を拾った下さった男性に、涙を拭き取り、少しばかり目元が腫れた顔ではあるがお礼の言葉を告げようとしたら……その男性が突然、右腕を掴んできた。
「やめて下さい。放してください!」
來未は突然のことに恐怖を感じながらも「放してください」と大きな声で叫んだ。
※左手のキャリーケースは、そのまま。本当は、武器として使いたかったけど、男性を刺激してはいけないと思いそのまま。
しかし、その男性は、來未の腕を放すどころか、さっきよりも強い力で腕を掴んでくる。
「痛っ」
痛みで、思わず右手に持っていたキャリーケースを手から離してしまう。
そして、その衝撃で左手に持っていたキャリーケースも手から離れ、どこにかに行ってしまい、來未もその場に倒れ込んでしまう。
※但し、うしろに背負っていたリュックサックのお陰で受け身をとることができ、怪我をせずに済んだ。
けどキャリーケースという大きな武器、そして、男性を見上げる形となってしまった來未。
そんな逃げ場のない状態に置かれてしまった來未に、男の魔の手が……
「警察だ! お前! そこでなにしてる!」
「!」
來未を襲おうとしていた男性は、突然聞こえてきた「警察だ」と言う言葉に驚き、その場から慌てて逃げていった。
一方、一人残された來未は、なにが起こったのか解らずしばらくその場から動く事ができなかった。
_2分後_
ようやく、落ち着きを取り戻した來未は、男に腕を掴まれ痛みで咄嗟に両手から離れどこかに行ったしまったキャリーケースを確保する為に、その場から立ち上がる。
すると、自分が今から捜しに行こうと方向から、まさに自分のキャリーケースを持った人物がこちらに向かって歩いてきていた。
「……店長? なんで店長がここに? 」
來未は、自分のキャリーケースを持って、自分の目の前に現れた樹に驚く。
「それはこっちのセリフだ! いやぁ? 今はそんなことより」
言葉を一旦切り上げると、そのまま來未を抱きしめる。
「てててて店長!」
突然樹に抱きしめられた來未は、驚き樹の名前を呼ぶ。
でも、樹は、そんな來未の声が聴こえていないのか抱きしめる力がさらに強くなる。
「てんてててて……いやぁ? いつ……」
「よかった。七橋、お前が無事で、お前にもしものことがあったら」
「えっ? なんで店長がそのことを知っているんですか? まさか……」
さっき、突然襲われそうになった自分を助けてくれた「警察官」ってまさか……
「……七橋」
「あぁぁはぃ! なんでしょうか?」
急に名前を呼ばれて、思わず返事がおかしく。
「ふふふ。やっぱり……お前も」
「なんですか? 言いたい事があるならはっきりとおっしゃって下さい!」
再び、言葉を切り上げ、しかし、自分の顔を見ながら一人ニヤニヤと笑う樹の姿に、來未は怒りはこみ上がってくる。
そのせいで、さっきまでの男性への恐怖はどこかに行ってしまった。
「本当に言っていいのか?」
「えっと……」
なんでそんな顔で言ってるんですか?
來未は、普段とは違う表情といつもとは違う声のトーンに言葉が詰まる。
「七橋、お前が言ったんだよねぁ? 言いたい事があるのらはっきりとおっしゃって下さって」
來未が何も言い返せないので、今度は、さっきよりも近い距離、彼女にどうして欲しいのか問いかける。
「それは……!」
來未が、樹の対応に困っているとどこからか大音量バイブレーションが聴こえてきた。
そのあまりにも大きなバイブレーションに、來未のことをからかおうとしていた樹は、思わず來未から離れ、音の出どころを捜す。
すると、その音は、來未が背中に背負っているリュックサックから聴こえてきている。
「あぁ店長! すみません!」
樹の視線に気づいた來未は、慌てて背中からリュックサックを下ろし、中からスマホを取り出し、電話の相手を確認する。
そこには、藤井弘樹と表示されていた。
來未は、一瞬、仕事先での彼との事が浮かんだか、隣には店長がいる。
それに、もしかしたら……あれは、自分の聞き間違えかも知れない。
そう、自分に言い聞かせ、通話ボタンを押した。
「もしもし」
★
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