第8話

13時。

「休憩行ってきます」

 兼城薪(29歳)が来て昼まで勤務の如月君が帰っていく、私は彼と入れ替わるように遅めの休憩に入る。

※兼城薪の特徴。身長は、藤井弘樹と同じ170センチ。髪は、黒色で耳が隠れる程度のショートカット。細身の藤井とは違い、全体的に程よく筋肉がついている。眼鏡を掛けている。

 今日は、弁当がないので賄のオムライスを受け取り、事務所に戻った。

 すると、店長の樹怜(いつきれい)さん(35歳)が、自分の机で事務処理をしていた。

※樹怜の特徴。身長180センチ。髪色の明るいブラウン。髪は、背の上ぐらいまである。それを仕事の時は、その髪を三つ編みにしてリボンで結んでいるが、普段は、黒いゴムで結んでいる。

「店長! お疲れさまです」

「あぁ! 來未ちゃん! お疲れ! あれ? 今日はお弁当じゃあないの?」

 店長は、來未がいつも弁当を持参している事を知っている。

 だから、賄を持っている事に驚く。

「…偶には賄もいいかなって?」

「もしかして…彼氏と喧嘩でもした?」

「…」

 店長の質問に、來未は返事を返さない。

「來未ちゃん?」

 自分の言葉に急に黙り込んでしまった來未に心配そうに声を掛ける。

 そんな店長の言葉に、來未はゆっくり口を開く。

「…捨てられました」

「えっ?」

 軽い冗談のつもりで言ったのに來未からのまさかの返答に、言葉を失ってしまった。

「あぁ! そうだ店長! どこかいい不動産屋さん知りませんか? 明日の休みを使って新しい家を捜そうと思ってるんですけど?」

 樹の表情を見て、すぐさま話題を変えた來未。

「…えっと…ごめん解らないかな?」

「そうですね? すみません変なこと聞いて! わたし休憩行ってきますねぇ?」

 來未は、話を切り上げて、賄を食べる為に隣の休憩室に向かう事にした。

「來未ちゃん! ちょっと待って!」

「店長?」

 いつにもまして真剣な店長の様子に來未は息を飲む。

「あのさ? きみさえよければ…俺の所にくる?」

 店長からの突然の誘いに來未は、驚き、オムライスを載せたお盆を落としてしまう。

「危ない!」

 樹は、來未の手から離れてお盆を床に寸前の所でキャッチする。

「あぁぁありがとうございます。あのあぁぁの店長? 今の…」

 樹からオムライスのお皿が載ったお盆を受け取け取りながら、言葉の意味を尋ねる。

 店長は、1年前、当時まだ恋人だった古橋総一郎さんからプロポーズされたと告げた時、まるで自分の事のように喜んでくれた。

 なのに…いきなり自分のうちにこないかと言われた。

 もしかしたら、明日一日で、住む家が見つからなかったら、当分の間は、ホテル住まいになるかも知らない。

 栞は、今、2年前付き合っている、遠藤匠さんと同棲している。

 栞の彼氏とは、何度か、栞込みで食事をした事ががあるので、彼氏の方も自分の事は知っている。なので、一日ぐらいだったら大丈夫だと思うが、何日もは無理だと思う。

 だから、本音を言えば、店長のお誘いはありがたい。

 けど…まだ、総一郎さんの事が…

「ぁぁ! 來未ちゃん! 今の冗談だから気にしないで! ごめんね?」

 自分の顔の前で両手をおもいっきり左右に振る。

「いえ? じゃあ、私、休憩行ってきますね?」

「…あぁうんいってらっしゃい!」

 お盆を持って事務所を出て行く。

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