第7話

「…店長って、來未の事が好きなんですか?」

 看板を持って事務所にやってきた栞は、事務作業の片手に、隣のパソコンでホール内の監視カメラ映像を同時に見ていた樹怜に投げかけた。

「!」

 突然聞こえてきた栞の声に、パソコンの画面に目が行っていた樹は、慌てて後ろを振り返る。

「なんだ神林か? 脅かすなよ」

「すみません。看板を戻しにきました」

「そっか? いつもの所に戻しておいてくれ!」

「解りました」

 栞は、樹に対して一礼すると彼の前を通り、奥のロッカーの中に看板を戻す。

 そして、再び樹の元に戻ってくると…彼が見ていたホール内を映した監視カメラの指差しながら…改めて樹に尋ねる。

「で、店長はいつから來未の事が好きなんですか? 來未がバイトとして入ってきた頃からですか?」

「なに言い出すんだ! あいつはここのスタッフだぞ!」

「スタッフだったら好きになったらいけないんですか?」

「あのなぁ? 俺はこう見えてもこの店の店長だぞ!」

「だから何ですか?」

「だから? 店長である俺が、スタッフである七橋に好意を持つはずないだろう?」

「そうでしょうか? 私から見て店長と來未は…」

「神林! 他に用事がないならもういいか?」

 栞の言葉を遮るように樹が栞に話しかける。

 樹は、まだ事務作業最中だ。

 だから、正直これ以上栞の話につきあっている暇はない。

「あぁぁすみません! 店長お疲れ様でした」 

 來未の事をもう少し追求しようとしていた栞は、樹のこの言葉に、彼が事務作業中だった事を思い出し、慌てて部屋から出ていった。

「あぁ! 生クリームのこと…まぁいっか明日謝れば」

『…店長って來未の事が好きなんですよね?』

「…なに動揺してんだよ? あいつ…スタッフで恋愛対象なんかじゃあない。それ以前にあいつには…」

 忘れられない…いやぁ、無理やり忘れた男がいる。

『藤井君! 何かわからない事があったら遠慮なく聞いてねぇ?』

 七橋先輩は、僕が困っているといつも優しく声を掛けてくれた。

 そんな先輩に僕はいつの間にか恋ごろを抱くようになっていた。

 けど、七橋先輩が店の常連客だった古橋さんと交際するようになってからは、先輩への恋心を自分の心の中に押し込めて、友人の一人として先輩の恋を応援していた。

 それなのに…

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