第14話
「ここでお願いします」
「ここ…ですか?」
「はい! ここでお願いします」
杏奈が撮影場所に選んだのは…噴水場だった。
そこにあったのは、噴水と小さなピンクのベンチ。
「解りました。では、最初は、杏奈さんの好きなようにポーズを取ってください。」
持ってきた一眼レフカメラを三脚に固定し、レンズ越しにピントを合わせ始める。
そんな美緒に、ポーズを取っていた杏奈が突然話し始める。
「あの? 撮影の前に少しいいですか?」
「どうしましたか?」
美緒は、カメラから視線を杏奈に移す。
「泉石さん。私達本当は5年前に一度別れてるんです。それも、別れた原因は自分の不倫なんです。そして、そのせいで彼は、みずから命を絶とうしたんです」
「…」
何も言えない美緒に、杏奈はさらに話しを続ける。
「だから、私は、彼から別れを切りだされたとき、別れを受け入れました。でも、彼と別れて、不倫相手だった元上司の男性にも、別れを告げられたばっかりの自分に残ったのは、孤独と自分の事を愛してくれていた彼を裏切った罪だけでした。その時、ようやく気付いたんです。自分が、草津千里さんにいつも守らていた事を。自分は、そんな彼を傷つけ裏切ってしまった。この罪は、一生消えない。だから、来週、彼に罪を許して貰う為に結婚するんです」
「…本当にそれでいいんですか? 後悔しませんか?」
「…泉石さん!?」
「えっ!」
美緒も自分でも気づかない内に口に出していたのか、彼女自身も自らの言葉に驚く。
「あっぁごめんなさい。すみません。撮影始めてもいいですか?」
「はははははい!
急にカメラを向け始めた美緒に、話を途中で切り上げられてしまった杏奈は急いでポーズを取る。
「はいOKです。じゃあ撮りますね?」
噴水から水が勢いよく飛び出した瞬間を狙って何度もシャッターを切る。
「はい! ありがとうございます。じゃあ、今度はこれで持って貰っていいですか?」
赤い薔薇の花束を杏奈に差し出す。
「赤い薔薇、綺麗ですね?」
「やっぱり結婚式って言ったら薔薇かなっと思いまして。じゃあ、その赤い薔薇を旦那様から受け取った想像しながらポーズを自分なりにポーズを取って貰ってもいいですか?」
「解りました」
その提案に、杏奈は噴水場の前にあった小さなピンクのベンチに腰を下ろし、美緒から受け取った赤い薔薇を大事に胸で抱きしめる。
そして、そこから一本赤い薔薇を取り出し、誰も居ない隣に向かって、話し掛ける。
「千里さん。絶対幸せになろうね? 今度こそ」
その言葉をレンズ越しで訊いていた美緒は、静かにシャッターを切った。
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