第8話

15時 泉石美緒が住むマンション 

「……」

 西條に教えて貰った美緒のマンションの前までやってきた渚は、刑期を終えたとはいえ、今の自分とはまるで住む世界が違う美緒に、なかなか西條から教えて貰った部屋番号を押すことが出来ない。

 しかし、その間も通り掛かる人が、なにかあったのかと不思議そうに自分のことを見ていく。

 当たり前だ。

 頭を抱えながら同じ場所(マンションのエントランス)で固まっているのだから。

「あぁもう! ここまで来たら当たって砕けろだ!」

 自分の両頬を叩き、覚悟を決めた渚は、西條から教えて貰った美緒の部屋番号を押し、美緒を呼び出す。

{…はい泉石です}

 受話器から聴こえてきたのは、5年間ずっと訊きたかった美緒の声。

「……あぁあの?」

 ガシャンガシャンガシャンガシャ

 受話器の向こうで何かが大きな音が響き渡った。

「……み」

 聞えて大きな音に渚が堪らず、美緒の名前を呼ぼうとしたら、

(……渚くんなの?)

 受話器越しから、自分の名前を呼ぶ声が聴こえてきた。

「……ただいま」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る