たまに一人でバーに来ては、原液を胃に流し込む。それでも体は耐性がつき酔っ払うことはない。
虚しい毎日だ。
周りからは恵まれた人生だと、皮肉交じりに羨まれることが多い。だが俺は、こんな人生の何がいいんだと心底思う。
満たされないというのは、想像以上に苦痛だ。
「─こちらのお席へ」
ウェイターが俺以外の客を案内する声。
フロアの中心に置かれた、馬鹿みたいにでかく四角いテーブル。その角に座っていた俺の斜め前の椅子が引かれる。
ちらりと、無意識に目をやると、そこに座ったのは華奢な女。
ふわりと、あまり匂ったことのない、甘すぎない優しい香りが鼻を掠める。
「ありがとうございます」
礼儀正しく頭をそっと下げる女。
背は多分、160はあると思う。だが少し撫で肩で、線の細い体をしているその女は背よりも随分小さく見える。
膝下までのタイトなワンピース。
白地のそれに淡い赤で描かれた大きな花。
その花は確か、蝋梅【ロウバイ】という中国の花だったか。慈愛の意味を持つが、毒のある恐ろしい花。
それは昔、中国で仕事をしていたとき取引先の社長の奥さんから知り得た知識。
慈愛と毒。まるで正反対だと、矛盾している花言葉になんだそれと思った記憶がある。
慈愛とは深い愛のことだ。毒をもつ花が愛。そんなことあるかと。
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