チーク

@ejoubn

Episode 1

22時



都内の高級ホテルの最上階にあるバー。上品なクラシックが流れるそのバーは広々としていて、洗練された造りに、柔らかい香りのするキャンドルが、俺の顔を静かに照らす。



仕事で上手くいった日には酒をのみたくなるし、上手くいかない日も同じように飲みたくなる。俺の人生において、酒は必要不可欠だ。



依存性か、といわれたら、はっきり違うとも言いきれない。



飯も食わず酒ばかり飲んで、一度胃に穴を開けたこともある。



今はどちらかというと仕事は上手くいっている。だが、嬉しくて祝いの酒をのんでるわけじゃなかった。



敷かれたレールを大人しく生きてきて、やりたいこともなく仕事に生きているこの人生に、価値なんてあるんだろうかと、自暴自棄になってのんでいるのに近い。



最近いつもこんな感じだ。



あまり物事に関心を示すタイプではなかった。昔から勉強も運動も人並み以上にでき、金に困ったことはない。適当にあしらっても自然と人が群がってくる、そんな人生だった。



なにかに必死になったり、本気で何かを夢みたり、そんなこと一度もない。



そういうのを馬鹿らしいと思ったこともなければ、羨ましいと思ったこともない。



満たされない日々を過ごしていると自分でも思う。どんなに大きな仕事をやり遂げたって、綺麗なモデルを抱いたって、俺の心はちっとも満たされなかった。




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