片恋慕

第73話

5階 誰もいなかった会議室 

「……」

 百花とも電話を終わり、久遠は、帰ることなく、誰も居なくなった会議室の窓から外の景色を独り眺めていた。

 雫丘出版は、駅中心部から少し離れた所にある為、この時間でも人通りが少ない。

 それでも、仕事や学校、遊びに行った人が駅に向かって歩いている。

 そんな姿を会議室の窓から見ながら、久遠は、さっき百花に電話越しで言われた言葉を思い出していた。

『私、本当は、今でも堂城先輩が好きなんです。だけど、それ以上に堂城先輩には幸せになって欲しいんです』

 久遠にとって、百花は、沢山いる部下の中の一人だ。

 しかし、ここ最近、同じ黒蝶で働く水川編集長や彼女と同期で友人でもある百瀬なる、そして、彼女の元直属の先輩で、現在、晴海編集部の副編集長をしている堂城誠也。

 その中でも、堂城誠也の話しをする時の彼女は、自分と一緒に仕事をする時には、絶対見せない顔をする。

 そうまるで恋をする乙女みたいな顔。

 俺は、そんな顔する市宮の事を……

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