第64話

「春ちゃんのことが羨ましいとかそんな気持ちが全くないって言ったら、勿論嘘になるけど。私達にも、春ちゃん程とは言わないけど、もう少し、優しくしてくれてもいいと思わない?」

「まぁ? でも、あの人が、常にオネェ言葉で話しかけてきたら、俺、殴るかも?」

「殴っちゃダメだよ! 一応上司で副編集長だし。でも確かに鮫島君の言ったみたいに四六時中、それも、オネェ言葉だけで話されたら、私も、もしかしたら殴るまではいかなくても、うざっとはなるかも」

「だろ? あの人、俺たちが指摘しないことはいい事に、編集部内でも、偶にオネェ言葉で話してるけど、あの姿で、あの顔で、オネェ言葉話されたら、マジホラーでしかないから!」

 晴海編集部に、棗編集長と堂城副編集長を除き、10人の社員が働いている。

 その中で、男性社員は、自分を含め5人しかない。

「晴海」のメインターゲットは、20代から30代前半の女性だ。

 その為、編集部内は、女性社員が圧倒的に多い。

「確かに、真顔の時に聞く、堂城副編集長のオネェ言葉って軽くホラーだよねぇ?」

 堂城の話し……ほぼ悪口で、盛り上がる黒木と鮫島。

「けど、そんな堂城副編集長の事をわたしには、自分でも気づかない内に、好きになってたんだろうねぇ? 本当、青天の霹靂ってこういう事を言うんだろうね?」

「……黒木」

「……鮫島君。私ねぇ? 本当ねぇ? ずっと、自分の気持ちをはっきり言える璃菜や誰に対してもすぐに甘えられる春ちゃん。そして、誰とでも対等な関係が築ける百花のことが羨ましいかった。だからねぇ? 昨日、鮫島君が、堂城副編集長に、百花のこと恋愛対象として見ているんですかって尋ねた時、自分でもよく解らなかったけど胸が凄くが苦しかった。そして、同時に、その質問に対して何も答えない堂城副編集長と百花を見てたら、急に怒りが湧いて……」

 当然、鮫島に抱きしめられる黒木。

「離して!」

 離れようとする黒木を鮫島が逃がさない。

「俺じゃあ、あの人の代わりになれませんか?」

「えっ?」

 逃げろとしていた黒木は、鮫島からの突然の言葉に、思わず動きが止まる。

 しかし、すぐさま、正気を取り戻して、

「ごめんなさい! 今は……」

 黒木が言葉の続きを言い終る前に、鮫島が黒木の唇を奪う。

「!」

「俺、ずっと待ってから。黒木が、俺のこと、振り向いてくれるまで」

 黒木にまるで宣戦布告(キス)を告げると、一方的に休憩室から出て行った。

 一方、独り残された黒木は、鮫島からの突然のキス&宣戦布告に途方に暮れてしまった。

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