第62話

_休憩室_  

 鮫島は、休憩室のベンチに座る黒木に、自動販売機で買った紅茶のペットボトルを渡す。

「ありがとう。えっと? 160円だっけ?」

「いいよ? 俺の奢り出し」

 自分の財布から160円を出そうとした黒木を制止する。

「ありがとう。じゃあ? 遠慮なく」

 蓋を開け、紅茶を飲む黒木。

 それを見て、鮫島も自分ように買ったお茶のペットボトルの蓋を開け、ひと口飲む。

「「あの?」」

 2人が同じがタイミングで話し始める。

「あぁ! ゴメン! 鮫島君の話しってなに?」

「いや? 黒木? お前の話しからでいいよ?」

「ううん。私の話しはあとでいいよ? それより、鮫島君は、私になにか用事があるんじゃあないの?」

 営業スマイルで、鮫島に微笑み掛ける黒木。

 そこに、感情のかの字すらはない。

 鮫島には、悪いが黒木は、彼のことは何とも思っていない。

「……うん。じゃあ? 昨日は、堂城副編集長との大事な打ち合わせ、邪魔してゴメン。それと……」

「……私ねぇ? 今、自分が抱えてるすべての案件(浜中商事を含む)が片付いたら棗編集長に、文芸雑誌への異動願いを出そうと思ってるんだ!」

「えっ?」

 黒木からの突然の「異動願い」発言に、持っていたペットボトルを床に落とす。

 蓋は、きちんと閉めていたので中身が零れることはなかった。

 けれど、落ちた衝撃で、ペットボトルが少し凹んだしまった。

「鮫島君。私ねぇ? 堂城副編集長のことがずっと好きだったみたい。だけど、その想いに昨日まで全く気付かなくて、むしろ、私、堂城副編集長のこと、ずっと苦手だったんだよ! だって? あの人? 春ちゃんだけには超がつくほど激甘だったじゃあん」

「!」

 鮫島に脳裏に、ある日の滝川春と堂城副編集長の会話が蘇ってきた。

  、

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